ドラッグ・ウォー 毒戦
監督 ジョニー・トー
出演 スン・ホンレイ/ルイス・クー/クリスタル・ホアン/ウォレス・チョン/ガオ・ユンシャン
ナンバー 277
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
初対面の男を冷静に観察し、しゃべり方や表情、癖や仕草、声のトーン、自慢話の内容まで頭に叩き込む。直後にはその男になりきって、別の男と会いすっかり信じさせる。広大な国土と過剰な人口の中、組織犯罪も公安の手が及ばないところで急激に成長している中国、物語は、麻薬製造・密売組織と敏腕捜査員の虚々実々の戦いを描く。面会を偽装し、罠に嵌め、奇襲をかけ、組織を追い込んでいく捜査チーム。生き残るためには手段を選ばない小悪党は、情報を小出しにして己の存在価値を高めようとする。緊迫感あふれる取引き、裏切りと駆け引き、聾唖兄弟が経営する深夜の工場と意外な反撃、黒幕の暗躍。信用できるのか、疑うべきなのか、謎めいた態度が不安と疑心暗鬼を煽っていく。
爆発した覚醒剤製造工場から脱出したテンミンは、交通事故を起こし警察に捕まる。テンミンは死刑を逃れるために自分が仲介するミーティングにジャン警部を参加させ、ジャン警部は交渉相手双方から秘密を引き出す。
男性刑事の前で尻を出し、飲み込んだ覚醒剤カプセルを洗面器に排泄させられる女。犯罪者に対して厳しい、いかにもこの国らしい光景だ。また、運び屋が運転するトラックが立てる土埃と尾行車の汚れが、乾燥した大地を実感させる。東部の都市を舞台にしているが、クルマだけでなく長時間の列車での移動が大陸的な広さを感じさせる。それは香港という狭い土地を離れたジョニー・トーが新たに得た解放感に似た自由。空間的な距離がより登場人物の疲労や焦りなど人間的な感情を浮き上がらせていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
テンミンの手引きで密売組織を壊滅させたジャンたちは、今度は陰で糸を引く香港人をおびき寄せる。そこで繰り広げられるカーチェイスと銃撃戦は、銃弾や破壊の数を競う派手なアクションではなく、むしろ間をたっぷりと取った死と暴力の美学を追求するような映像。そしてあくまで生にしがみつこうとするテンミンの見苦しいまでの執念は、現世の利益に執着する中国人の世界観を象徴していた。
オススメ度 ★★★