こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

明日への遺言

otello2008-03-05

明日への遺言


ポイント ★★
DATE 08/3/2
THEATER 109KH
監督 小泉堯史
ナンバー 52
出演 藤田まこと/富司純子/ロバート・レッサー/フレッド・マックイーン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


無差別爆撃という戦争犯罪を犯した者に対する処刑。そしてその処刑を行った者と命令を下したものはいかに処すべきか。指揮下で起きたことにはすべて責任を追うという指令官の姿を通じて、信念ある生き方イコール死に方とは何かを問う。ただ、法廷シーンの半分が英語で、わざわざ逐語訳の日本語字幕でフォローするのだが、このあたりもう少し脚本の段階でうまく処理できたはず。日本映画であるにもかかわらず字幕を追わねばならない煩わしさを作り手はどう考えているのだろう。


名古屋空襲で撃墜された米軍機乗員を捕虜として扱わず斬首処刑した罪で告発された東海軍司令官・岡田中将。戦後、B級戦犯として米軍から起訴され、裁判にかけられる。岡田は軍律と国際法の観点から部下たちの責任も追及しようとする検察と徹底的に争い、自分を犠牲にして部下の命を守ろうとする。


岡田の弁護を引き受けたフェザーストンという男の公平な態度が非常に新鮮だ。米国人であるにもかかわらず岡田のために検察官とわたりあい、明らかに日本人を見下した尊大な態度の裁判長に対し、岡田の正当性を訴える。無論職務からであろうが、戦勝国の人間が敗戦国の元軍人のためにここまで一生懸命に弁護する姿は、フェアプレーを重んじる米国人の魂を象徴していた。どうせなら岡田の妻ではなくこの弁護士を語り部にすれば、もっと戦犯裁判に対する歴史認識が深まったはずだ。


裁判の論点は、司令官は部下の行為にどこまで責任を負うべきか、という点に集約される。岡田の主張は少しもブレず、全責任は自分にあるという。ならば最終的には昭和天皇に戦争責任があるというところまで踏み込んで欲しかったが、原爆投下で多数の民間人を殺したことで、トルーマン大統領も戦犯となりかねない理論を展開させることで暗示するに留まっている。戦争犯罪を題材に取っているのに旧日本軍の統帥権を持っていた天皇に言及せず、家族や部下との湿っぽい別れのシーンを長々と見せるのは余りにも芸がなく腰が引けている。


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