こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

聯合艦隊司令長官 山本五十六

otello2011-12-06

聯合艦隊司令長官 山本五十六

ポイント ★★★*
監督 成島出
出演 役所広司/玉木宏/柄本明/柳葉敏郎/阿部寛/吉田栄作/椎名桔平/益岡徹
ナンバー 287
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


通勤には背広に中折れ帽、家庭ではよき夫でよき父親。およそ海軍を率いる現場の最高責任者と思えぬ理知的で穏やかな人間像は勇ましい軍人のステレオタイプとは全く逆のイメージだ。さらに三国同盟推進派の前で部下とともにヒトラーの日本人観を披露して諌めるなど、抜群の教養を持つインテリでもある。映画は、軍備はあくまで平和を維持するためのものという思想で戦前・戦中の日本海軍の屋台骨を支えた軍人の、一貫した対米戦争に対する消極的な姿勢を描く。時代の趨勢の中で常に大局から戦争を見つめた男の生き様は飄々として清々しい。


海軍次官の山本は三国同盟締結案をつぶし聯合艦隊司令長官の辞令を受ける。ところが欧州で大戦が勃発すると再び三国同盟の機運が高まり、やがて米国との干戈が避けられなくなる。山本は真珠湾攻撃に向かう洋上でも米国との早期講和論を曲げない。


彼我の国力の差を知り、冷静に考えれば全面戦争して勝てる相手ではないのが明らかなのに、それに気づき口にする軍人は山本以外誰もいない。“知識人”であるはずの新聞記者のほうがよほど居丈高に開戦を訴える。真珠湾奇襲成功後には主戦派だけでなく戦勝気分に湧く国民も踊らされはじめ、山本は海軍内でもKY扱いになる。ミッドウェーの大惨敗ですら講和論の後押しにならず、その心中の苦汁はいかばかりか。一度暴走し始めた“空気”の前で無力感に苛まれる山本の、それでも司令長官としての重責を全うしなければならない苦悩を役所広司が抑制を利かせて演じている。


◆以下 結末に触れています◆


もはや絶命しているのか、それとも痛みに耐えながら暗澹たる日本の未来を憂えているのか、一式陸攻機上で被弾した山本は半開きの目でじっと前を見据え表情を崩さない。そこにあるのは、和平への願いを果たせなかった失望と後悔、そして先に戦死した部下や名もなき兵士たちへの思い。そんな山本の死を美化するのではなく、客観的に見つめることが21世紀に生きる者の役目なのだ。


↓公式サイト↓