こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゲンスブールと女たち

otello2011-05-24

ゲンスブールと女たち GAINSBOURG(Vie heroique)

ポイント ★★*
監督 ジョアン・スファール
出演 エリック・エルモスニーノ/ルーシー・ゴードン/レティシア・カスタ/ダグ・ジョーンズ/ミレーヌ・ジャンバノワ/アナ・ムグラリス
ナンバー 122
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「醜い子はイヤ」と女の子に邪険にされた幼い日、彼は女という生き物を意のままにしようと決意した。それも飛びきり上等の女ばかりを・・・。子供のころからヌードモデルを口説き、人気歌手に気にいられるなど、早くも女心をとろけさせるテクニックを身につけている主人公。どんなに美人で裕福でも、必ずコンプレックスを抱えていて、それを埋めてやり、夢を語れば大抵の女は寝てくれる。映画はそんな、酒とタバコと歌を愛した男の破天荒な人生をなぞる。前衛と反逆、斬新と官能、保守的・道徳的な人々が嫌うあらゆることを表現した時代の寵児にとって、セックスこそ創造の源だったのだ。


幼少時から美術と音楽の才能に恵まれたリュシアンは、大戦後美術学校に進学する。バーでピアノ弾きのバイトをしているうちに音楽の道を選びセルジュと改名、歌手や女優に自作の歌を提供し始める。


鼻と耳が異常に大きいユダヤ人の特徴をデフォルメしたセルジュの分身がいつも彼に付きまとう。普通なら、分身とは内なる欲望を抑えて“いい人”を演じている人間の本音の具現化だが、ここではセルジュの共犯者のように振る舞う。時に忠告し、時に足を引っ張ろうとするが基本的にセルジュを否定せず、弱気になった彼の背中を押したりする。迷ったり自信をなくしたりしても自分を肯定してくれる分身の存在の心強さが、セルジュがセルジュであり続けられた理由なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


ストーリーは実在した音楽家・セルジュ・ゲンズブールの、歌手・女優・モデルなどとの結婚・離婚の繰り返しを描く。彼女たちも当然実名で登場するゆえか、恋愛シーンはどこかぎこちない上に心理的な踏み込みがイマイチ足りず、事実の表層をなぞってはいるが真実にまで手が届いていない感じ。わずかに分身の不細工な容姿だけが彼のトラウマを物語っていたが、もっと創作における葛藤やいくら女を抱いても癒せない孤独といったセルジュの苦悩にまで言及していれば、作品に重層的な深みが出たのではないだろうか。