こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

15年後のラブソング

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もう音楽はやめたつもりだった。息子との静かな生活に満足しているはずだった。だが、1通のメールがもう一度現実に向き合う勇気を与えてくれた。物語は、英国の小さな町に住む女とネット上で知り合った米国の元歌手が、過去に決着をつけ未来に向かって歩き出す過程を描く。失恋の哀しみを嘆いた歌をセンチメンタルだと批判された。納得したうえで返事を書いたら、図らずも喜んでくれた。ロンドンに行く機会に恵まれ、会いに行こうとした。ところが、さまざまな障害が彼の前に立ちはだかる。女の方も元カレとの適正な距離感がわからないまま、歌手との間にもぎこちない壁できてしまう。彼らはみな立派な中年。なのに、いまだ心は落ち着かない。子供がいてもいなくても同じ。まだ老成したくない、それは人生100年時代世代の切なる思いなのだ。

数枚のアルバムを残し消えたシンガーソングライター・タッカーのファンサイトを主宰するダンカンは、同棲中の恋人・アニーに浮気がばれ、家を追い出される。アニーは密かにタッカーとメル友になっていた。

何度も結婚に失敗し厭世的な暮らしをしていたタッカーは、自分に関心を持ってくれている人間に少し興味がわく。ロンドンに住む娘のひとりから出産の報告があり渡英するが、アニーとの約束を急病ですっぽかしてしまう。入院中のタッカーの病室に集ったそれぞれ母親の違う子供たちが屈託を抱えているあたり、父を知らず育ったのだろう。彼らを等しく愛そうとするタッカーの鷹揚さがラブソングから滲み出していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アニーの家に泊まることになったタッカーは、そこでダンカンのコレクションを見る。しかし、歌詞の本当の意味が他人にわかるわけはないと、ダンカンの賛辞には顔を曇らせ不機嫌になる。一方でダンカンは、解釈は聞いたものに委ねられるべきだという。自分を神のようにあがめていたダンカンに対し社交辞令の一つも言えないタッカーの幼稚なメンタリティは、アーティスト気分が抜けきっていない証拠。少しは彼の成長も見たかった。

監督  ジェシー・ペレッツ
出演  ローズ・バーン/イーサン・ホーク/クリス・オダウド/アジー・ロバートソン
ナンバー  85
オススメ度  ★★★


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