ファースター 怒りの銃弾 FASTER
ポイント ★★
監督 ジョージ・ティルマン・Jr
出演 ドウェイン・ジョンソン/ビリー・ボブ・ソーントン/オリヴァー・ジャクソン=コーエン/カーラ・グギーノ/マギー・グレイス
ナンバー 123
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
10年の時がじっくりと熟成させた憎悪は、刑務所を出た瞬間に滾りだす。刑期を終え出所したばかりの主人公が原野の一本道を走りだす冒頭のエピソードは、彼がいかにこの日を切望したかを饒舌に物語る。そしてその憤怒は抑えがたいエネルギーの奔流となって、自分をハメた者たちを抹殺していく。映画は、銀行強盗で得たカネを強奪された上、兄を殺され、さらに後頭部を撃たれて罪まで着せられた男が、今はのうのうと市民生活を送る悪党どもに復讐の銃弾をぶち込んでいく姿を描く。ドウェイン・ジョンソンの圧倒的な肉体から発散される威圧感は、そこに佇んでいるだけで異様な殺気を孕んでいた。
自由の身になった“運転手”は手配してあったクルマと拳銃、殺害対象者リストを手に入れると、早速オフィスに押し入って男を射殺する。この事件の担当となった“刑事”と、謎の“殺し屋”は“運転手”の足跡を追い始める。
“運転手”が操る大排気量のシェベル、“殺し屋”がステアリングを握るフェラーリ、“刑事”が運転する大衆車。“運転手”はワイルドな力強さ、“殺し屋”はスマートな洗練、“刑事”はありふれた匿名性と、それぞれがクルマで己の個性を主張する。ところが、“運転手”がいかにして横取り犯をひとりずつ始末していくかが見どころのはずなのに、たいしたひねりもなく恨みを晴らしていくだけでは、せっかくのクルマによるキャラ分けが生かされてこないではないか。唯一、悪行から足を洗って伝道師になった男に、“許し”こそが人生を豊かにすると語らせ、“運転手”が迷いを見せるところは、彼にも人間らしい感情が残っていて共感できたが。
◆以下 結末に触れています◆
もともと、この手の映画に観客が期待するのは、息もつかせぬアクションと、肉が裂け骨が砕けるような暴力性。だが、“運転手”の格闘シーンは一度きりで、カーアクションも後ろ向きに激走する場面のみが印象に残る。低予算という制約の中で精いっぱい作っているのはよくわかるが、その中でも何かひとつきらりと光る映像センスやアッと驚くアイデアを見せてほしかった。