こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ペーパーバード

otello2011-06-04

ペーパーバード Pajaros de papel


ポイント ★★★
監督 エミリオ・アラゴン
出演 イマノル・アリアス/ルイス・オマール/ロジェール・プリンセプ/カルメン・マチ
ナンバー 129
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


停電で消えた電球を指先でつつく父と息子、それを見つめる妻。家族3人がささやかながら暮らしを楽しむ姿をスケッチしたプロローグが、おとぎ話のような温かさを運んでくれる。しかし、小さな幸せも戦争の前ではあっけなく崩れ去り、主人公はコメディアンであるにもかかわらず、舞台を離れるといつも苦虫をかみつぶした顔になってしまう。映画は、彼が食べていくために必死になって働ける場所を探している孤児の少年と出会い、次第に絆を強めていくうちに、再び希望を取り戻して行くまでを描く。反体制派のレッテルを張られてもなお権力を風刺し続ける彼の、不器用だが筋の通った生き方が美しい。そして、愛する対象ができたとき、人は強くなれることを彼の行動は教えてくれる。


スペイン内戦時、芸人一座の喜劇役者・ホルヘは空襲で妻子を亡くす。1年後、一座に復帰すると、ミゲルという少年が押し掛け入門し、相棒のエンリケと共に彼の面倒を見るハメになる。


最愛の息子を思い出すせいか、最初のうちホルヘはミゲルに辛く当たる。市場で旧知の八百屋にミゲルを亡息と間違えられた時のホルヘの胸の痛みは耐えがたいものだったはず。だからこそミゲルの盗癖をきつく戒め、ミゲルの親代わりになって育てるのが自分の未来につながると感じたのだろう。そのあたり、彼らの距離感が縮まっていく様子が感情豊かに語られる。また、巡業先の田舎街で、村長が一座の看板歌手・ロシーナを見染めるエピソードが時代の雰囲気を濃厚に反映させている。一生懸命ロシーナを口説く村長は、同じく男やもめながら妻子を忘れられないホルヘと好対照をなし、ホルヘの悲しみの深さを浮き彫りにする。


◆以下 結末に触れています◆


やがて一座の興行にフランコ総統が臨席する情報がもたらされる。反体制派の急先鋒である大道具係は暗殺のチャンスといきり立つが、ホルヘはもはや体制と戦うより、ミゲルと生きのびる道を選ぶ。命がけで守るべきものを今度こそは失いたくない、そんなホルヘの願いがきちんとミゲルに伝わっていた事実を示すラストシーンは、人生の素晴らしさを高らかに歌い上げていた。