ポイント ★★★
監督 フィリップ・シュテルツェル
出演 アレクサンダー・フェーリング/ミリアム・シュタイン/モーリッツ・ブライブトロイ/フォルカー・ブルッフ/ブルクハルト・クラウスナー
ナンバー 261
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
絶望は創作の源、苦悩は情熱の証。恋に破れた青年は心の痛みをペンに託し思いをつづる。死が頭をよぎっても、実際に引き金を絞る勇気はない。一方で言葉は泉のごとく湧きあがり、いつしか苦く切ない思い出は不朽の文学作品に昇華されていく。まだ自分の進むべき道を決めかねていた若き日の文豪、映画は彼が自殺してしまいたいほどのつらい経験の末に才能を開花させていくまでを描く。直接顔を合わせるか手紙だけが気持ちを伝える手段、そんな当時の空気が、舗装されていない泥だらけの道やろうそくの炎しかない夜に象徴されていた。
法律を学ぶゲーテは試験に落第、書き上げた戯曲も出版には至らず、小さな町の裁判所の実習生となる。ある日、ダンスパーティでロッテという娘と出会い、ふたりは急速に惹かれあっていく。
意識しているのにどちらも相手が行動を起こすのを待っている。恋の駆け引きというにはあまりにも未熟な意地を張りながら、我慢できずについ馬を飛ばしてしまう。すぐには会える距離ではないが、胸の高鳴りを抑えるには近すぎる。一度は入れ違いになるのに帰り道でお互いの姿を認めた時の喜びが、草原と森、そして廃屋の中で唇を重ね体を合わせるシーンに凝縮されていた。愛の素晴らしさが生きる力に変わる瞬間のきらめきにあふれた映像が美しい。
◆以下 結末に触れています◆
だが、家計を支えるためにロッテはゲーテの上司・ケストナーと婚約、そうとも知らずにプレゼントを抱えてロッテの家に乗り込むゲーテ。すべての事情を察したゲーテとケストナーの気まずい表情、ロッテの困惑した態度、それら三角関係の愁嘆場がむしろ喜劇的に見えるところが、散々語りつくされてきたゲーテ秘話に絶妙なスパイスとなって物語を引き締めていた。後にゲーテは決闘罪で獄につながれ、そこで「若きウェルテルの悩み」を完成させる。失恋は誰もが体験する青春の蹉跌だから書かずにはいられない、その衝動こそが作家にオリジナリティを与えることを彼の背中は饒舌に語っていた。