オススメ度 ★★★
監督 園子温
出演 夏八木勲/大谷直子/村上淳/神楽坂恵/でんでん/筒井真理子/清水優/梶原ひかり
ナンバー 205
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
逃げる若い世代と、住み慣れた土地にしがみつく老夫婦。抗いがたい巨大なうねりに巻き込まれ、生き残ろうとする者と運命を受け入れようとする者の間に太い“杭”が打ち込まれる。それは親と子だけではなく、過去と現在、生と死をも隔てる境界線。物語は目には見えない恐怖が徐々に拡散し、人間の日常を蝕んでいく様子を描く。避難先で防護服を身に包む妊婦が町の人々から白眼視されるシーンは、人の心に潜む偏見が生む反応こそが恐ろしいのではと思わせる。そしてどこまでも付きまとってくる絶望は、今もなおフクシマの被災者に降りかかっている現実だ。
地震による原発事故で住民に退避命令が出る。酪農を営む小野家はぎりぎり立ち入り禁止地区を免れるが、小野は長男夫婦の洋一・いずみを避難させる。ふたりは見知らぬ街で新生活を始め、いずみは妊娠する。
突然警察と自衛隊がやってきて、小野家の庭先に原発20キロ圏のバリケードを作る。小野の家は圏外だが向いの宅地住民は国家権力による問答無用の強制退去。さらに避難地域が広がるが、周囲から誰もいなくなっても小野は普段通りの暮らしを続ける。認知症を患う妻と手塩にかけて育てた乳牛への思いというより、国に対する強烈な不信感が小野をより頑迷にしている。やがて小野のもとに家畜殺処分や強制退避の通知が来るが、それらは「命令書」と居丈高だ。国策だったはずなのに、事故が起きると家畜を殺して出ていけと被災者に「命令」する。国の仕打ちに怒り、あきれ、あくまで抵抗しようとする小野はすべての原発被災者の気持ちを代弁していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
映画は小野夫婦、洋一夫婦、隣人のヨウコとミツルの若いカップルの事故後を追う。もはや人が住めなくなったふるさと、あきらめるのか進むのかそれとも別の選択をするのか、いずれにせよ“一歩、一歩”と歩むことでしか未来は変えられない。そんな希望への願いに反して、放射線はいつのまにか忍び寄ってくるのだ。その救いのない映像は、深く鋭く見る者の胸に突き刺さる。。。