こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

LAMB ラム

猛吹雪の夜、唸り声が山から下ってくる。馬の群れは脅えて道をあけ、家畜小屋では羊たちがパニックになる。物語は、人里離れた高地で牧羊を営む夫婦に訪れた幸福を描く。羊から生まれた生き物を我が子として育てている。赤ちゃんに接するように哺乳瓶で授乳し毛布にくるんで抱っこする。まるで本物の母子のように愛情で包まれている。夫も彼らを見守り家族の絆を結んでいる。そんな時やってきた夫の弟。どんよりとした湿り気と冷たさを持つ映像は、悲しみに満ちた人生にやっと希望を見つけた夫婦の未来が決して明るいものではないと暗示する。出産を手伝う夫婦が羊の子宮から引っ張り出した逆子を見た瞬間に目を合わせただけで合意するシーンは、彼らの落胆がいかに大きく、その意識を共有していたことを象徴していた。

イングヴァルとマリアは羊から生まれた生物にアダと名付け、自分たちの寝室で育て始める。アダは順調に成長するが、母羊がアダを探して寝室の窓の下で鳴き、何度追い払っても戻ってくる。

その後、イングヴァルの弟・ペートゥルが訪ねてくる。夫婦がアダと暮らしているのを見て驚くが、すぐに状況を飲み込みアダとも仲良くなる。5歳児ぐらいの身長になったアダは背筋を伸ばして二足歩行し、椅子に座ってテーブルで食事する。表情が乏しく考えていることはわからない。言葉は通じるが口にはしない。それでも、鏡に映った姿を見て、両親よりも家畜小屋の動物に似ていることは理解している。驚きと戸惑い、なによりアイデンティティを疑い始めたアダが、その小さな背中で感情の揺れを表現するシーンが印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

子供に早逝された経験を持つ夫婦にとって、アダという愛を注ぐ対象を見つけた時間はかけがえがない。他人の目を気にする必要もない。一方で、母性本能を銃弾で砕くのは人間の傲慢さでもある。人間の愛情は家畜の命より優先されるのか、先天的な特異や異常に対してはどう接するべきか。価値観を押し付けず、あくまで見る者に判断を委ねる姿勢が心地よかった。

監督     バルディミール・ヨハンソン
出演     ノオミ・ラパス/ヒナミル・スナイル・グブズナソン/ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン
ナンバー     179
オススメ度     ★★★*


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