こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カンチョリ オカンがくれた明日

otello2014-03-15

カンチョリ オカンがくれた明日

監督 アン・グォンテ
出演 ユ・アイン/キム・ヘスク/キム・ジョンテ/キム・ソンオ/チョン・ユミ/イ・シオン/シン・ジョングン
ナンバー 56
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

重い病気の上認知症を患う母を持つ青年は、様々な仕事を掛け持ちしながら母の面倒を見ている。カネはない、夢もない、母がいるために町に外に出た経験もない。ただ日々を精いっぱい過ごしているだけ。そんな彼にいっそうの不運が降りかかり、使い捨てにされる運命になる。物語は最低の人生からさらにドツボに転落していく悲惨な展開にもかかわらず、主人公の前向きな明るさがどこかコミカルな味わいを醸し出し、シリアスな趣はない。それは生きていればきっといいことがある彼の信念ゆえだろう。もはや息子の顔すらわからなくなった母とのピントはずれの会話が切ない笑いを誘う。

釜山漁港の日雇いで食いつなぐチョルは、母・スニの不始末に翻弄される毎日。カメラを持った旅行者・スジと知り合ってもデートもままならない。ある日、幼馴染のチンピラ・ジョンスの兄貴分が日本のヤクザを殺すところを目撃する。

母の手術費用集めに頭が痛いチョルは、ギャングに騙されて莫大な借金を背負ってしまう。折しもジョンスの兄貴分が日本ヤクザの親分の暗殺を決意、チョルにヒットマンを命じる。元々腹が据わっているチョルは自分の役目を受け入れ、血気盛んな本物のギャングを目の前にしても全く動じず、むしろ恫喝する。母や友人は大切にするのに己の命は顧みないチョル、彼が時折見せる遠いまなざしは思い通りに振る舞えない苦悩の象徴。本当なら母の死を願ってもおかしくない、しかしそれくらいなら鉄砲玉となったほうがましというプライドが、彼のポーカーフェイスから滲み出ていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

移植手術のために入院したスニに別れを告げ、暗殺地点に向かうチョル。そこで待ち受けているのは裏切りと罠、傷つき血だらけにななりながらも生き延びる意思は決して変わらない。あえて感情の抑揚を控えめにした映像が、チョルの哀しみとその先にあるはずの希望を際立たせていた。

オススメ度 ★★*

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