こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サスペクト 哀しき容疑者

otello2014-06-26

サスペクト 哀しき容疑者

監督 ウォン・シニョン
出演 コン・ユ/パク・ヒスン/チョ・ソンハ/ユ・ダイン/キム・ソンギュ
ナンバー 142
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

後ろ手に縛られたまま首吊り刑にされたのに、肩の関節を回して後頭部のロープを握り縄環から頭を外す男。過酷なサバイバル訓練を耐え抜いた強靭な肉体と裏切り者に対する復讐の憎悪は、死をも克服する。そして人とクルマと暴力と情報があふれる大都会で、走り、ステアリングを操り、格闘し、交渉し、謎を解いていく。短いカットをつなぎ合わせたカーチェイスと肉弾戦は「ボーン」シリーズを彷彿させる圧倒的なスピード感で考える時間を与えず、二重三重に仕掛けられた罠とその裏で蠢く巨大な陰謀を暴く展開は上質なミステリーのよう。物語は殺人の濡れ衣を着せられた脱北者が、当局の追撃をかわしながら妻子の仇を討とうとする姿を描く。逃亡者が追跡者となり、ターゲットからもまた命を狙われている。ギリギリの緊張感の中で感情を殺して生き残る主人公の目が哀しい。

工作員脱北者・ドンチョルは北支援組織会長の暗殺現場に遭遇、会長から託されたメガネを持って逃げる。保安部幹部のソッコはドンチョル逮捕を特殊部隊教官のミン大佐に命じる。

北のスパイとみなされ厳しい監視下に置かれる脱北者、北への人道的支援を行う人々も当然当局に疑われている。一方で脱北者の私兵組織を作り、邪魔者を消す韓国人もいる。誰が敵で誰が味方なのかわからぬまま、ドンチョルは人混みに紛れクルマを奪って行方をくらまし、ソッコの放った殺し屋を迎え撃つ。孤立無援の中、生存本能をフル回転させるドンチョルはまるで野生の獣、疲れ傷つきながら身をひそめ、近寄る者には牙をむく。そんなドンチョルを、コン・ユがすさまじいまでの殺気で熱演する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その過程でミンはソッコが抱える秘密を知り、ドンチョルに密着取材するTVレポーターはソッコの疑惑をつかむ。立場の違う様々な人々が非常に複雑な因果関係で結ばれ、ドンチョルとソッコの因縁に収束していく流れはやや詰め込みすぎでわかりにくい点もある。だが、純粋に祖国を思う軍人のミンが最終的に心を通わせたのはかつての宿敵であるドンチョル。戦いの中でお互いの能力に敬意を抱く、まさに男の映画だった。

オススメ度 ★★★

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