こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ザ・テノール 真実の物語

otello2014-08-20

ザ・テノール 真実の物語

監督 キム・サンマン
出演 ユ・ジテ/伊勢谷友介/チャ・イェリョン/北乃きい/ナターシャ・タプスコビッチ/ティツィアーナ・ドゥカーティ
ナンバー 189
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

聴衆の気持ちを鎮めるやわらかな歌い出しから脳天を直撃する高音への劇的な移行、圧倒的な声量と繊細なテクニックで客席にこだまする歌声は、やがて耳を傾ける者すべての心を熱い昂揚感で満たしていく。ステージで「誰も寝てはならぬ」を独唱する主人公を、上下左右前後あらゆるアングルからとらえ歌い終わるまでをワンショットに収めたプロローグはまさに圧巻。オペラの魅力のみならず、映像の持つ“感動を伝える力”が凝縮されていた。物語は声帯が傷ついたテノール歌手が、家族や友人の助力で再起を目指す姿を描く。通俗的な展開ではあるものの、ふんだんに盛り込まれたオペラの名曲・名場面の数々が目と耳を楽しませてくれる。

韓国人ながらドイツで活躍するチェチョルの声に魅了されたプロモーターの幸司は、彼を日本に招聘、大成功を収める。ところが、チェチョルは甲状腺にガンがみつかり手術、声が出せなくなってしまう。

オペラハウスとの契約は切られ、マネージャーも去り、元歌手の妻の努力も報われない。きらびやかなオペラハウスの裏側ではオペラ同様のなまぐさい人間模様が繰り広げられる。そんな、失意のどん底にいるチェチョルに手を差し伸べたのは幸司。採算を度外視し、友情だけを理由に彼を励まし、執刀医を探し、声帯の回復手術を受けさせる。切開した喉に器具をあて、チェチョルに声を出させながら音域を調節する手術法がユニークで、本筋とはあまり関係のない部分でのディテールへのこだわりがチェチョルの復活にリアリティを与えている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

かつてのように鼓膜を突き抜ける高音はもう出せない、だが苦悩と絶望を味わったチェチョルの声はより感情がこもり深みを増している。助けてくれた人々、支えてくれた人々、見守ってくれた人々、人生への感謝を捧げるのにチェチョルが選んだのは「アメージンググレース」。腹に響く奥行きのあるバリトンが、奇跡は自分を信じ希望を持ち続ける者に訪れると教えてくれる。

オススメ度 ★★★

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