こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

群盗

otello2015-03-13

群盗

監督 ユン・ジョンビン
出演 ハ・ジョンウ/カン・ドンウォン/イ・ギョンヨン/マ・ドンソク/イ・ソンミン
ナンバー 54
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

富める者はますます肥え太り、貧しき者は搾取され食べ物にも事欠いている。民衆の不満は爆発しても正規軍には敵わず死屍累々打ち捨てられるのみ。一部の特権階級が甘い汁を吸い、農民町人は日々の暮らしすらままならないという構図は、格差社会と化した現代の韓国をトレースする。物語は朝鮮王朝末期、そんな世の中に風穴を開けようとする義賊と彼らに弾圧を加える美形の武官の対決を描く。壮大な夕日をバックに砂埃舞う荒野を馬にまたがって走る一団など、マカロニウエスタンのエッセンスをふんだんに取り入れた映像は哀切を帯びたヒロイズムをスタイリッシュに再現し、素手の格闘から剣・矛・弓矢・鉄球・肉切り包丁まで使った多彩なアクションは、自由と様式が激突する躍動感あふれる殺陣で目を楽しませてくれる。

屠畜人のトルムチは武官のユンにある女の暗殺を頼まれるが失敗、殺されかけたところを義賊団に救われる。義賊の一員となった彼はトチと名付けられ、ユンに復讐するために修行に励む。

有力者の庶子として生まれたユンは複雑な幼少期を送ったがゆえに武芸に勤しみ、達人の域に達しても冷酷な性格は変わらない。非情な手段で農民から土地をだまし取り一家の財産を殖やすことで跡取りの座を狙っているが、正統な血を引く男子が義賊の村で健在と知って村もろとも抹殺を図る。自分が生き残るためには他人を踏み台にするしかない、ユンもまたこの時代の被害者であり、憂いを湛えた瞳には愛無く育った孤独が宿っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

体制側から見れば、市民に紛れてゲリラ戦を仕掛け、殺戮と略奪を繰り返す義賊はテロリストに他ならない。もちろん彼らとて衣食が足りていれば礼節を知り、真面目な労働者として一生を過ごしただろう。だが、貧困が怒りに、不当な仕打ちが憎しみに、肉親の死が恨みに変わった時、巨大なうねりとなって権力に牙をむく。「イスラム国」の“ジハード”も根は同じ、今の時代、義賊を英雄視するのは危険な気がした。

オススメ度 ★★*

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