こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

名もなき塀の中の王

otello2015-08-22

名もなき塀の中の王 STARRED UP

監督 デイヴィッド・マッケンジー
出演 ジャック・オコンネル/ベン・メンデルソン/ルパート・フレンド
ナンバー 188
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

飢えた野獣のように凶暴さを隠さず、鋭利な刃物のように触れる者すべてを傷つける。友情、信頼、寛容、優しさ、思いやり……人間の美徳を知らずに育った若者は、ヒリヒリする孤独の中で「ナメられたら負け」の掟を自らに課し、周囲に敵意をむき出しにしている。物語はそんな主人公が刑務所内の大人たちと交流していくうちに少しずつ社会性を身につけていく過程を描く。圧倒的な権力を前にしても決して曲げない強固な意志、しかし持て余す感情を発散させる手段が乱闘しかない不器用さが哀れだ。そして甘い感傷や同情を一切排した映像は、暴力が唯一のコミュニケーションである彼の苦悩を象徴していた。意外にも粗暴犯に対する刑務所側の扱いは非常に“人道的”で、もっと囚人に規律や秩序を叩き込むべきと思ってしまう。

素行の悪さゆえ少年院から一般刑務所に移されたエリックは早速トラブルを起こす。ところが、ボランティアスタッフ・オリバーの計らいで、懲罰房に入る代わりに他の囚人たちとのグループセラピーに参加する。

オリバーの粘り強い説得とセラピー仲間に助けられたことから、エリックは怒りを抑える術を教わり、徐々に態度を軟化させていく。その間、獄中生活が長い実父・ネビルもエリックの面倒を見ようと介入してくる。だが、ネビルにはサバイバルの知恵はあっても父子という人間関係はほとんど経験がない。彼自身もまともな少年時代を送れず若いころは凶悪犯だったはず、実の息子にぎこちない接し方をする彼の戸惑いが切ない。皮肉にもエリックとネビルのファミリーネームは「Love」。彼らの人生にいちばん欠けていたものだが、他に特別な意味があるのだろうか。。。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、エリックの直情径行を戒める囚人のまとめ役や、オリバーを嫌う看守長たちの画策で、エリックは再び窮地に陥る。やっぱり誰も信じられない、自分の身は自分で守ると彼が心を閉ざしかけた時、初めて真剣に心配してくれている他人の存在に気づく。ひとりでは生きていけない、愛が人を理性的にする、刑務所で初めてそれを学ぶエリックの背中は哀しみに満ちていた。

オススメ度 ★★★

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レッドカーペット

otello2015-08-21

レッドカーペット

監督 パク・ボムス
出演 ユン・ゲサン/デユン/コ・ジュニ/オ・ジョンセ/チョ・ダルファン
ナンバー 193
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

映画監督を志し、“自分の映画を作りたい”という熱意を胸に10年間頑張ってきた。ところが任されるのは低予算のポルノ映画のみ。これも修行と割り切ってメガホンをとり続けるが、やっぱり自作の脚本を他人に横取りされるのは許せない。物語はそんな主人公がわけあり女優との出会いと別れを通じて、本当にやりたかったことに向かって走り出すまでを描く。製作費がないと嘆き、上司の愚痴を垂れているだけだった。でも彼女のひたむきさが、チャンスは与えられるものではなくつかみ取りに行くものだと彼に気づかせる。夢は追うばかりでは逃げていく、叶えるためには具体的な計画と失敗を恐れない勇気が必要とこの作品は教えてくれる。ポルノ映画を蔑む一般人の意識が“芸能”に対する韓国での根強い差別を訴える。

撮影を終えたジョンウがアパートに戻ると、元子役女優・ウンスが転がり込んでいた。ジョンウが書いた脚本を盗み読みしたウンスは、その作品のヒロインを演じたいと願い、女優のキャリアを再開する。

だが、自宅での追加撮影に鉢合わせしたウンスは、ジョンウが女を連れ込んでいると誤解し黙ってジョンウの元を去る。やがてウンスは売れっ子になりジョンウとの格差は広がる一方、ジョンウはくすぶっていた思いを打ち明けるためにウンスの撮影現場に押し掛けたりするが、空回りする。その間、映画に関わる人々の情熱やビジネス感覚、様々な温度の人間関係などがコミカルに再現され、映画業界に生きる人々の生態が活写される。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

しかし、それらのエピソードは、スピード感のないショットの連続とキレのない編集のおかげで非常に冗漫な印象を受ける。さらに創作に辛苦するジョンウや演技の方向性を決めかねているウンスといったクリエーターの苦悩はすっかりスルーされ、“映画界を描いた映画”としては掘り下げ方が不十分。もっと展開を早め、上映時間をあと20分圧縮すれば退屈しなかったのだが。。。

オススメ度 ★★

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ラブ&マーシー 終わらないメロディー

otello2015-08-20

ラブ&マーシー 終わらないメロディー LOVE & MERCY

監督 ビル・ポーラッド
出演 ジョン・キューザック/ポール・ダノ/エリザベス・バンクス/ポール・ジアマッティ/ジェイク・アベル
ナンバー 192
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

大衆を魅了するメロディを生み続ける才能がプレッシャーに押しつぶされていく。期待に応えなければならない、でも新しいサウンドに挑戦したい。ただ歌で思いを伝えたいだけなのに、巨大なビジネスに組み込まれてしまった後は好きな音楽を楽しめない。それが成功と言うならばあまりにも虚しく、やがて彼は精神の均衡を失っていく。映画は1960年代、全米を席巻したミュージシャンの孤独と20年後の再生を描く。瑞々しい若者が、カネに群がる肉親のエゴに振り回される一方で、彼らには“自我”を歌った新曲をドラッグソングと否定される。さらに信じていた者たちの離反と父親の裏切り。その失望感から逃れるためにLSDを服用し繊細な心が蝕まれていく。二重あごにたるんだ腹という醜い肉体になっていく過程が主人公の不安と絶望を饒舌に物語っていた。

自動車ショールームでメリンダに声をかけたブライアンは彼女を食事に誘う。精神科医のユージーンに日常生活を管理される不満を訴えるブライアンにメリンダは同情し、彼をユージーンの治療から解放するべく家政婦から事情を聞き出す。

かつての大スターも今は見る影もない。初対面ではメリンダも彼がザ・ビーチボーイズのブライアンとはわからない。デートを重ねるうちにブライアンの飾らない人柄に惹かれ、言葉の端々から発せられるSOSを敏感に感じ取るメリンダ。そんな彼女をブライアンから引き離そうとするユージーン。海に飛び込み海岸まで泳ぐブライアンとメリンダの、束の間の自由を謳歌する姿が切ない。ユージーンに妄想性統合失調症と診断され薬漬けにされ食い物にされている現実を知ったメリンダは、ブライアンを愛していると気づく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

燦々と降り注ぐ西海岸の太陽の下での青春を謳いあげたブライアンの苦悩、それは莫大な資産を手にしたゆえの人間不信。世界から取り残されていく青年時代のパートと、愛を見つけた中年のパートの対比が、幸せな人生とは何かを教えてくれる。

オススメ度 ★★★

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死霊高校

otello2015-08-19

死霊高校 THE GALLOWS

監督 クリス・ロフィング/トラビス・クラフ
出演 リース・ミシュラー/ファイファー・ブラウン/ライアン・シューズ/キャシディ・ギフォード/トラビス・クラフ
ナンバー 184
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

アメフトの花形選手で、自分はイケていると思っている少年は、片時もビデオカメラを手放さずクラスメートにちょっかいを出し続ける。先生を小バカにし、真面目に頑張る友人を見下し、笑えないいたずらで周囲を困らせて面白がるなど、何をしても許されると勘違いしている。そんな、ホラー映画では決して生き残れないタイプのキャラが不快感をまき散らし、彼がどんな断末魔を迎えるのか期待が膨らんでいく。物語は高校演劇の上演を妨害するために深夜の学校に忍びこんだ生徒たちが体験する恐怖を描く。彼らが持ち込んだ撮影機器によって記録されたという設定のPOVショットで綴られる映像は、驚きや不安、焦りや後悔、怒りや絶望をリアルに再現し、観客にも彼らの感情を共有させてくれる。

20年前に死亡事故を起こした「絞首刑」の再演で主役を務めるリースは演技に身が入らず、悪友のライアンに公演を中止させようと唆される。2人はライアンのガールフレンド・キャシディと舞台のセットを壊し始める。

3人は校内でリースの相手役・ファイファーと合流するが、開いていたはずの非常口が閉まったまま動かなくなり、スマホも圏外、助けも呼べず外部から孤立する。脱出口を探して校舎内を歩き回るが、ドアも窓もすべてロックされている。さらに怪しい人影が蠢く。何者かが潜んでいる、誰かが仕組んでいる。やがて4人は「チャーリーの呪い」に取り憑かれていると気づく。そして身代わりになって死んだ不気味なハングマンに脅え追い詰められていくうちに、触れてはいけない事実を知る。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

この作品では一台のハンディカメラだけでなく、スマホの動画撮影機能も使い、4人が直面する状況が多面的に表現される。そこに映っているのは邪悪なこと不吉なものであるのは間違いない。それでもつい見たくなるのが人間の好奇心。命の危機が迫っても、いや殺されても録画ボタンを放さない彼らの強固な意志には、ある意味悪霊以上の執念を感じた。。。

オススメ度 ★★*

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ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲

otello2015-08-15

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲 Feher Isten

監督 コーネル・ムンドルッツォ
出演 ジョーフィア・プショッタ/シャーンドル・ジョーテール
ナンバー 190
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

瓦礫の山から人通りの絶えない街路、入り組んだ市場の雑踏、商店のバックヤードまで全速力で走り、止まり、隠れ、逃げる。追いかけてくる職員はみな捕獲具を持ち、捕まればほとんどが死を待つだけの運命。不安に脅えつつも生き延びようとする本能が疲れ切った脚にエネルギーを与える。そんな、地上数十センチの視点で撮影された逃走・追跡場面は、下手なカーチェイスよりも刺激的でスリリングだ。感情や意志を持ち仲間同士でコミュニケーションをとって協力する。そして恐怖と痛み、自分たちを害獣とみなし危害を加えた人々や虐待した身勝手な飼い主たちは絶対に忘れない。“もう人間の都合で振り回されるのは嫌だ”、カメラは犬たちの気持ちに寄り添い、彼らの“生存の自由”への思いを再現する。

雑種犬のハーゲンは飼い主のリリから無理やり引き離され、捨てられる。空き地で野良犬の群れと合流したところを野犬狩りに急襲され、ホームレスに保護されるが転売される。ハーゲンはそこで闘犬としての訓練を受ける。

過酷なトレーニングで心身を鍛えられ、歯まで研がれたハーゲン。ところが試合で対戦相手を噛み殺して逃亡すると再び空き地に戻り、以前助けてくれたブチ犬と再会する。薬物投与がハーゲンを“進化”させたのか、自らの安全を図りながら時に他の犬たちと力を合わせて生命の危機を脱する姿は豊かな知性すら感じさせる。その間、リリは懸命にハーゲンを探すが手がかりはつかめない。リリの孤独とハーゲンの怒り、並行して語られるふたつのエピソードは人と犬の関係を逆行させる予感をはらむ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、野犬収容所に送り込まれたハーゲンは処分寸前に脱走、他の犬も後に続く。今こそ苦痛からの解放と生きる権利を求めて蜂起するとき、もはや彼らには人間に対する復讐心しかない。通りを埋め尽くす200頭余りの犬の大群が通行人やクルマを蹴散らしながら激走する映像は圧巻だった。虐げられた弱者の反乱は格差社会の行きつく先を象徴していた。

オススメ度 ★★★★

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ベルファスト71

otello2015-08-14

ベルファスト71 '71

監督 ヤン・ドマンジュ
出演 ジャック・オコンネル/ポール・アンダーソン/リチャード・ドーマー/ショーン・ハリス/デイヴィッド・ウィルモット
ナンバー 191
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“敵”と教えられた人々に助けられ、“味方”のはずの男たちに命を狙われる。深刻な宗教対立と独立闘争、テロリストを取り締まる警察と軍、双方の陣営に過激派と穏健派が混在し主導権を争っている。蔓延する裏切りと欺瞞、そして知ってしまった衝撃の真実。1971年北アイルランド、映画は紛争地域に派遣された新兵が体験した混沌と死の恐怖を描く。見知らぬ敵地で孤立、武器はなく、容赦ない銃撃を受ける。逃げおおせたと思ったのにいつの間にか敵の勢力範囲に戻っている。現在地も目指す場所もわからず通行人は皆敵に見える。救出を呼ぶ手段もなく、ひとり途方に暮れながら疲れ切った肉体に鞭を打つサバイバルの過程で、主人公の孤独と不安、焦りと痛みがリアルに再現される。

イギリス軍入隊後ベルファストに赴任したゲイリーは、現地警察の治安活動に同行する。だが、カトリック住民の反英運動と遭遇、小銃を盗んだ少年を追ううちに住民に囲まれ部隊からはぐれてしまう。

もちろん事前に複雑に絡み合ったパワーバランスと大まかな実情をレクチャーされてはいる。しかし新米司令官の判断ミスで住民パワーを抑えきれない。しかも群衆に紛れた過激派がいきなり発砲してくる。走らなければ殺される状況でゲイリーは迷路のような住宅地を全力で駆け抜け、難を逃れたところをプロテスタントの少年に保護され親英派のアジトに案内される。何を信じ誰を頼るべきか、とりあえず襲ってこない人に身を任せるしかない。覚えきれないほどの多くの顔が短時間に交差するなか、時限爆弾の誤爆でゲイリーはまたしても街に放り出される。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

重傷を負ったゲイリー、今度はカトリックの父娘が彼に手を差し伸べる。一方でゲイリーを探す過激派の追っ手が迫る。さらにゲイリーを交渉材料にしたい穏健派や秘密を見られた警察も動きだし、それぞれがゲイリーという“ジョーカー”を手に入れんと権謀術数を巡らせる。武力衝突を“必要”とする魑魅魍魎が跋扈するなか、ゲイリーの失望が紛争地域の現実を物語っていた。。。

オススメ度 ★★★

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EDEN/エデン

otello2015-08-13

EDEN/エデン

監督 ミア・ハンセン=ラヴ
出演 フェリックス・ド・ジヴリ/ポーリーヌ・エチエンヌ/ヴァンサン・マケーニュ
ナンバー 154
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

若くして成功の味を知ってしまった。名声、ドラッグ、女、カネ、彼の周りには人が集まった。欲しいものは何でも手に入り、やりたいことはすべて実現できた。だが、成長は止まってしまう。物語はパリのクラブシーンの最先端を駆け抜けた主人公の20年に及ぶ魂の彷徨を描く。常に進化しなければ時代についていけないのに、一度張ってしまった見栄はやめられない。ガールフレンドは何人もいたが、本当に愛したのかどうかわからない。きっと心の中は不安と不満でいっぱいのはず、酒とコカインに溺れて現実から逃避する。カメラは彼の弱さを丁寧に追って、“叶ってしまった夢”にどっぷりとつかり、そこから抜け出せないまま周囲の人々から置き去りにされる苦悩をリアルに再現する。

大学生のポールはテクノポップの選曲でたちまち人気DJとなる。親友とチアーズと呼ばれるユニットを組み、ナイトクラブ経営者らと仕事の幅を広げていく。数年後、ついにニューヨークのクラブシーンに躍り出る。

その間、米国人人妻のジュリアや取り巻きのルイーズと付き合うポール。夜な夜な明け方までのお祭り騒ぎは、不確定な未来よりも目の前にある楽しみをむさぼるのが生きる証と思い込んでいるようでもある。20代前半まではそんな日常がクールても、やがて一人また一人と同じ空気を吸った仲間が脱落していく。ところがポールだけは永遠にこんな毎日が続くと信じて、ライフスタイルを変えない。大人になりたくないポールの甘えが痛々しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

中年に達したポールは銀行からは破産宣告され、再会したルイーズから重大な秘密を明かされ己の罪深さに気づく。そして借金を重ねてきた母にも見放され、ポールはやっと“甘い生活”を卒業する。結局、ほとんど何も生み出さなかった十数年、それでもいつか「あれがオレの青春だった」と、小説に昇華させる日が来るのだろうか。人生の皮肉をたっぷりと味あわせてくれる作品だった。

オススメ度 ★★*

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