こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イーディ、83歳 はじめての山登り

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愛の冷めた夫に30年も尽くした。娘とは折り合いが悪く、老人ホームにもなじめなかった。ある日思い出した、遠い日に交わした亡き父との約束。物語は、83歳の独居老人が険しい山登りに挑戦する姿を描く。屋根裏から引っ張り出してきたのは埃をかぶった年代物の登山具。現代の道具と比べると生命の危機を覚えるレベルだ。偶然知り合った青年から装備一式購入して見事な “山ガール” !? に変身する過程は、初心者ほど格好から入るのが合理的であると訴える。決して主張を曲げない頑固者のようで急に弱気になったりする。カネに細かいけれど必要な出費は惜しまない。若者に忠告されると、正しくてもへそを曲げる。常に上から目線で相手を見る。そんな扱いづらい老婆をシーラ・ハンコックが好演、老人のワガママをリアルに再現していた。

介護していた夫の死後もロンドンでひとり暮らしをしていたイーディは、思い出の品の整理の途中、父から届いた古い絵ハガキに写っている山への登山を思いつき、スコットランド行きの寝台列車に乗る。

ホームでぶつかってきた地元の青年・ジョニーにホテルまで送ってもらうがあいにく満室、イーディは彼の部屋で一夜を明かす。ジョニーがガイドだと知ると彼を雇い登山に備えたトレーニングを始める。少し不愛想なジョニーとイーディは口論ばかり、それでも打ち解けるうちに互いの身の上話もするようになる。やがてイーディを頂上に立たせるのがジョニーにとっても未来を賭けた戦いになっていく。そのあたり1人では不可能でも2人ならモチベーションも上がると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

紆余曲折を経て単身山に挑む決意をしたイーディはジョニーをふもとに残して歩きだす。草原を歩き湿地帯を越えテントを張って一夜を過ごす。暴風雨に襲われて山で迷う。岩場で意識を失ったりもする。そのたびに運命に身を任せていると、何かが、誰かが助けてくれる。ずっと不幸だった人生も捨てたものではないと思い直す彼女の表情は、山頂から眺める絶景のごとく晴れやかだった。

監督  サイモン・ハンター
出演  シーラ・ハンコック/ケビン・ガスリー/ウェンディ・モーガン/エイミー・マンソン/ポール・ブラニガン
ナンバー  282
オススメ度  ★★★*


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http://www.at-e.co.jp/film/edie/

私のちいさなお葬式

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いつ心臓が止まってもおかしくないと宣告された。ひとり暮らしの家で倒れた。なのに、息子は病院まで迎えに来るとすぐに仕事に戻ってしまった。物語は、死期を悟った老婆が己の葬儀の準備に奔走する姿を描く。流行りの生前葬ではない、まだ生きているのに死んだことにして息子に余計な手間を取らせないようにしたい。ところが、戸籍上で “死ぬ” には死亡を証明する書類が必要。時間は有り余っている彼女は体が動くうちにすべてを整えようと役所に出向き、棺を買い、最後の晩餐の用意をする。だが望んでいる穏やかな死はなかなかやってこず、彼女の焦りは募るばかり。一方で知人にもらった鯉は旺盛な生命力を発揮する。天寿が近いヒロインと本能で生き残ろうとする鯉、2つの対照的な命がこの世に生を受けた意味を問う。

退院後、息子のオレクに自宅まで送ってもらったエレーナは、よそよそしいオレクの態度に失望する。もうオレクに迷惑はかけまいと思ったエレーナは自身の死亡届を提出しようとする。

エレーナは小さな村で教師として定年まで勤めあげ、今は年金生活者。教え子たちが村中にいる。遺体安置所で働く教え子を言いくるめて死亡診断書の偽造を頼み戸籍係に除籍してもらう。彼女の申し出に目を丸くしていた戸籍係が、書類がそろったとたんにあっさりと受理する。そのペーパー至上主義は社会主義時代の硬直した官僚制度の名残なのだろうか。願いが叶って公式に “死んだ” と認定されたエレーナは、雷に打たれようとしたり隣人に自殺ほう助依頼したりするが、そう簡単には死にきれない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、戸籍係とのかみ合わない会話を始め、本来コミカルなタッチにすべきところがたくさんあるだが、まったく面白くなかった。その後、連絡を受けたオレクが駆け付け、彼との間でまたひと悶着ある。しかしその過程も共感できる部分が少なく、笑いにまで昇華されていない。やっぱり日本人とロシア人とはユーモアのセンスが違うのか、「恋のバカンス」がこれほどロシアでもポピュラーとは驚きだったが。

監督  ウラジーミル・コット
出演  マリーナ・ネヨーロワ/アリーサ・フレインドリフ/エヴゲーニー・ミローノフ/ナタリヤ・スルコワ/セルゲイ・プスケパリス
ナンバー  295
オススメ度  ★★


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http://osoushiki.espace-sarou.com/

MANRIKI

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顔デカ顔デカ顔デカ顔デカ……。ファッション雑誌で小顔特集が組まれ、オーディションでは小顔モデルしか採用されない。物語は、顔が大きいコンプレックスを抱く駆け出しのモデルが「小顔矯正整形」で運命を暗転させていく姿を描く。人の美しさは見かけではなく内面にある。だが外見に自信がないせいで自分の美しさを引き出せないのなら、少しはいじってもいいはず。そんな言葉に納得した彼女が受けたのは、万力で頭部を挟んで頭蓋骨を圧縮する過激な施術。望み通りの小顔になった、しかし皮膚が引き攣れた二目とみられない容貌になってしまった。それでも好きな男に付きまとう女の執念がすさまじい。まるでシュールな悪夢を見ているような浮遊感が全編を覆い、小顔にこだわるヒロインの浅薄な思い込みを強烈に皮肉っていた。

小顔整形のためにイケメン整顔師のクリニックを訪れたモデルは、その場で寝台に縛り付けられ強制的に小顔にされる。施術後、モデルは整顔師に恋をするが冷たく拒絶される。

仕事の依頼が来ないのは顔が大きいせいと決めつけ、他の理由を考えないモデル。その妄信が彼女を追い詰めていくのだが、彼女が感じるデカ顔への恐怖が生々しい迫力で再現される。もはやデカ顔には生きる値打ちもないと確信し、プライドを持ってやっているモデルの仕事が顔の大きさというなかなか変えられないところで決まる現実に不満を隠さない。他人にとっては小さなことでも本人にしてみれば人生を左右するほどの重大事、ところが小顔になると、彼女は己の醜さには言及しなくなる。このあたりの価値観の違い、女心の繊細さが興味深かった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、整顔師は指名手配犯になり逃亡、途中でかかわった美人局と奇妙な共犯関係になる。もはやそのあたりからどういう展開になるか先の予想はまったくつかず、映画は常識の彼我を軽々と飛び越えてしまう。ただ、そこに必然性はなく、“なんか現場のノリで作っちゃいました” 的な緩さが漂っている。もっと小顔願望女の顛末を見たかった。

監督  清水康彦
出演  斎藤工/永野/金子ノブアキ/野替愁平/神野三鈴
ナンバー  294
オススメ度  ★★*


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http://crush-them-manriki.com/

ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!

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背中まで伸ばしたロン毛が俺たちの反骨の証。そう信じて仲間と音楽を続けてきたのに、田舎では馬鹿にされるだけ。物語は、フィンランドの小さな村でヘビメタバンドを組む4人の若者がノルウェーで開かれるフェスに勇躍乗り込む姿を描く。もう12年もやっているのにコピー曲ばかり。ステージに立った経験もない。やっと作詞作曲した新曲もどこで発表していいかわからない。偶然訪ねてきた音楽プロデューサーに希望を託すが返事は来ない。YouTubeなどなかった時代なのだろう、まだ人から人に情報伝達していたころの人間関係の距離感が懐かしくも温かい。大人になるのを拒否した彼らの衝動に任せた無軌道な行動がバカバカしくもうらやましかった。バンドの宣材写真を撮るために取締カメラを使うあたり非常にクールだ。

それぞれ仕事を持ちながら音楽活動をやめられないトゥロ、ロットヴォネン、パシ、ユンキの4人はちんたら練習を重ねる日々。ある日、一念発起してオリジナル曲を完成、新たな一歩を踏み出す。

ロットヴォネンの家に買い物に来たプロデューサーにデモテープを手渡したことを花屋の娘に話すと、いつの間にか噂は村中に広がり、住民のトゥロたちに対する態度が一変する。白い目で見られていたのに一躍ヒーロー扱い、ナイトクラブで歌う羽目になる。地元歌手の前座とはいえ初めてのライブ、しかし直前の凶報のせいでトゥロは気もそぞろ、なんとかマイクの前に立つがが緊張のあまり声が出ない。さらにユンキの死が彼らの青春に終わりを告げる。このあたり、モラトリアム期間を卒業したくない彼らの軟弱な反権力志向を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

だが出来上がった宣材写真を見た彼らは、“便秘でいるよりは漏らした方がまし” と、ダメモトでノルウェーのフェスを目指す。その間のドタバタ劇は快調かつコミカルで、ベタな展開ながらツボを押さえた演出で退屈させない。彼らの暴走はノルウェーのプロデューサーの耳にも入り、その意気を買われる。凶暴な音楽性と彼らのヘタレ具合の対比が新鮮だった。

監督  ユーソ・ラーティオ/ユッカ・ビドゥグレン
出演  ヨハンネス・ホロパイネン/ミンカ・クーストネン/ビッレ・ティーホネン/マックス・オバスカ/マッティ・シュルヤ/ルーン・タムティ
ナンバー  288
オススメ度  ★★★*


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http://heavy-trip-movie.com/

ルパン三世 THE FIRST

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パリで逮捕された大泥棒をバンで移送中に、仲間が身柄を奪還する。彼らの逃走車を追跡するパトカーがなぜか右ハンドル、不思議に思っていると車体の横には “埼玉県警” の文字が。ほんの短いショットに込めた遊び心が楽しい。物語は、世界を一変させる超兵器の秘密を記した日記を巡って盗賊団と怪しげな組織が繰り広げる争奪戦を描く。日記を読むためには複雑な仕掛けの箱を開けなければならない。2つの鍵とパスワード、双方の鍵は祖父の代からの因縁が染み付いていて、主人公とヒロインはお互いの運命に引き寄せられるかのように導かれ日記の下に集う。そしてナチスの野望。CGで立体的によみがえった往年の名作は、キャラクターはそのままに圧倒的なスピード感と目まぐるしい展開を伴って帰ってきた。

第二次大戦中にフランスの科学者が遺した “ブレッソン・ダイアリー” を盗もうとしたルパンは、レティシアという少女に邪魔をされる。レティシアの事情を聴かされたルパンは彼女と手を組む。

レティシアの情報をもとにたどり着いたのは、第三帝国再興を目論むゲラルトの輸送機。日記ケースに施された錠を解くと古代言語で超兵器・エクリプスの隠し場所と使用法が書き残されている。マルチな言語能力と考古学に造詣深いレティシアはすべてを解読する。その間、ルパン側でも次元、五ェ門、不二子、銭形等のお馴染みの登場人物が絡み、それぞれに見せ場を作る。時代背景を1960年代初頭に設定しているために彼らが操る小道具類はアナログのローテク、古き良きアニメの味わいを残しつつ表現力が格段にアップした映像はスリリングかつエスプリが効いていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

エクリプスの所在を知ったゲラルトとルパンたちはメキシコに向かうが、その洞窟に入るためには「インディ・ジョーンズ」風の “試練” を乗り越えなければならない。さらに全貌を現したエクリプスを悪用するゲラルトと止めようとするルパン。ストーリーに新鮮味はないが、ルパンのクールな世界観は時を経てもなお色褪せていなかった。

監督  山崎貴
出演  栗田貫一/小林清志/浪川大輔/沢城みゆき/山寺宏一/広瀬すず
ナンバー  291
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://lupin-3rd-movie.com/

“隠れビッチ”やってました。

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コクられた男に断りの電話を入れるとき必ず小指で鼻の穴をほじっている。デート中のぶりっ子とは正反対のだらしない姿、そのギャップが大いに笑わせてくれる。物語は、男の恋心を手玉に取ることで承認欲求を満たしてきた女が本物の愛に目覚めるまでを描く。愛されていたい、求められていたい。ルックスの良さと女の子っぽい仕種で男たちを操ろうとするのは幼いころに受けたDVによるトラウマの裏返し。好きだと言われているうちは楽しいけれど、誰かを好きになるとその思いを相手に押し付けてしまう。結局、自己チューでワガママなだけ。さらに追いかけるべき夢もない我が身がちっぽけな人間に思えてしまう。そんなヒロインが失敗を重ねながらも成長する過程は共感を呼ばない分、突き放した気分で見ていられる。

勤務先で知り合った男にアプローチしたひろみは、恋したつもりになっていたが彼の浮気を目撃する。ショックのあまり公園で泥酔していると、同じ職場の三沢に介抱される。

とんでもない醜態をさらしたひろみに対しても三沢はあくまで紳士的、積極的に言い寄ってくるわけではないが嫌われていないのは確か。ひろみは三沢の前では飾ろうとはせず、かえって三沢はひろみに好意を持ち始める。そして突然のキス、“体はそれなりにピュアだ” と開き直るひろみの勘違いぶりはイタさを通り越してむしろコミカル。容姿に恵まれているだけでこれほどまでに全能感に浸れる、こんな女には早く天誅が下れと期待してしまう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その間、同居人の彩と些細な原因で大げんかしたり、せっかく付き合いだした三沢にも不機嫌を丸出しにしたりとやりたい放題。手の届く範囲はすべてコントロール下に置きたいというひろみの願いはエスカレートしていく。ほどなく持ち出された別れ話。父の見舞いで、ひろみはあれほど憎んでいた父と性格がそっくりだったと気づき、自分が、父と同じタイプの “嫌なヤツ” で周囲に多大な迷惑をまき散らしていたかを悟る。どうせなら最後までビッチを貫いてほしかったが。

監督  三木康一郎
出演  佐久間由衣/村上虹郎/大後寿々花/小関裕太/森山未來
ナンバー  290
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://kakurebitch.jp/

ティーンスピリット

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学校では教室の隅にたたずみ、家では黙々と農作業を手伝う。私らしくいられるのはナイトクラブで歌っている時だけ。さえないオッサンしかきちんと聞いてくれないけれど……。物語は離島に住む少女がスターを目指す過程を描く。聖歌隊で歌えという母の目を盗んで夜な夜なマイクを前にするが、ガラガラの客席が空しく見える。酔漢に絡まれそうにもなった。そんな時声をかけてくれたのは東欧から移住してきた元オペラ歌手。みすぼらしい格好だが耳と声は本物、発声法すら身につけていなかったヒロインは彼の指導でみるみる実力をつける。目標があってもなかなか走り出す勇気が出ない。それでも背中を押されると違った自分が見えてくる。まだ心の声が明確な形を成さない彼女をエル・ファニングが繊細に演じる。

英国の小さな島で母と2人で暮らすヴァイオレットは、彼女の歌を聞いたヴラドと名乗る男に褒められ、オーディション番組の2二次予選に必要な保護者兼マネージャーになってもらう。

ヴラドはセルビアでは有名だったらしく同郷の若者から尊敬されている。ヴィオレットはヴラドに歌唱の基礎から厳しく鍛え直されて審査員の前に立つ。このころには彼女の出場を知った音楽仲間も注目し始めている。ヴラドをマネージャーとして認めた母は、マネジメント料を大幅に値切るがめつい一面を見せるなど、移民が信じられるのはカネのみという英国社会の現実をのぞかせる。一方のヴラドもヴァイオレットを育てることで我が子に託せなかった夢をかなえようとする。だれも頼らずだれにも頼られずに生きてきた彼らがお互いに相手を必要としている。親子以上に年齢が離れていても友情は成立すると2人の信頼関係は教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

繰り上げで二次審査を通過したヴァイオレットはロンドンでの決勝戦に臨む。田舎ののど自慢とは違いTV中継が入るなど本格的、優勝者にはメジャーデビューが約束されている。だがそこに待ち受けるのは甘い罠。ヴァイオレットの迷いは、臆病さと正直さを象徴していた。

監督  マックス・ミンゲラ
出演  エル・ファニング/レベッカ・ホール/ズラッコ・ブリッチ/アグニェシュカ・グロホウスカ
ナンバー  281
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://teenspirit.jp/