いつ心臓が止まってもおかしくないと宣告された。ひとり暮らしの家で倒れた。なのに、息子は病院まで迎えに来るとすぐに仕事に戻ってしまった。物語は、死期を悟った老婆が己の葬儀の準備に奔走する姿を描く。流行りの生前葬ではない、まだ生きているのに死んだことにして息子に余計な手間を取らせないようにしたい。ところが、戸籍上で “死ぬ” には死亡を証明する書類が必要。時間は有り余っている彼女は体が動くうちにすべてを整えようと役所に出向き、棺を買い、最後の晩餐の用意をする。だが望んでいる穏やかな死はなかなかやってこず、彼女の焦りは募るばかり。一方で知人にもらった鯉は旺盛な生命力を発揮する。天寿が近いヒロインと本能で生き残ろうとする鯉、2つの対照的な命がこの世に生を受けた意味を問う。
退院後、息子のオレクに自宅まで送ってもらったエレーナは、よそよそしいオレクの態度に失望する。もうオレクに迷惑はかけまいと思ったエレーナは自身の死亡届を提出しようとする。
エレーナは小さな村で教師として定年まで勤めあげ、今は年金生活者。教え子たちが村中にいる。遺体安置所で働く教え子を言いくるめて死亡診断書の偽造を頼み戸籍係に除籍してもらう。彼女の申し出に目を丸くしていた戸籍係が、書類がそろったとたんにあっさりと受理する。そのペーパー至上主義は社会主義時代の硬直した官僚制度の名残なのだろうか。願いが叶って公式に “死んだ” と認定されたエレーナは、雷に打たれようとしたり隣人に自殺ほう助依頼したりするが、そう簡単には死にきれない。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ただ、戸籍係とのかみ合わない会話を始め、本来コミカルなタッチにすべきところがたくさんあるだが、まったく面白くなかった。その後、連絡を受けたオレクが駆け付け、彼との間でまたひと悶着ある。しかしその過程も共感できる部分が少なく、笑いにまで昇華されていない。やっぱり日本人とロシア人とはユーモアのセンスが違うのか、「恋のバカンス」がこれほどロシアでもポピュラーとは驚きだったが。
監督 ウラジーミル・コット
出演 マリーナ・ネヨーロワ/アリーサ・フレインドリフ/エヴゲーニー・ミローノフ/ナタリヤ・スルコワ/セルゲイ・プスケパリス
ナンバー 295
オススメ度 ★★