こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け

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肉体は滅びても魂は霊体となって存在し、生きている人々を自在に操っている。精神を極限にまで研ぎ澄まし物理的な作用をもたらすまでに昇華したパワーは、独裁者の野望を抱く者でも身につけることができるのだ。冒頭で蘇る銀河皇帝、実はこのシリーズ、彼こそが裏主人公であると宣言する。物語は、一段と成長したヒロインが自らの出自を知り運命に決着をつけるまでを描く。コインの表裏のような関係にある男も究極の権力を握るために彼女を必要としている。一方で自由を求めて一緒に戦う仲間たちも残り少なくなった。そして最後に問われるのは彼らの体に流れる血。そのままでは呪われた力でしかない。良心と理性に裏打ちされた人間だけが世界を変えられる。相反する二つの「正義」が並立する銀河の対立構造は、価値観の多様化した現代社会に「真実」とは何かを問いかける。

ファイナル・オーダーの最高指導者となったカイロ・レンは、ルークの下で修業中のレイにテレパシーを送り共に銀河の支配者になるべく協力を呼び掛ける。レイはレンの心に残った善なる部分に訴えようとする。

飛び立った輸送船をフォースで引き戻そうとするレイと、阻もうとするレン。2人の間で壮絶なフォースの綱引きが繰り広げられるが、ジョージ・ルーカスがこだわってきたライトセーバーによるチャンバラの美学が台無しだ。パルパティーンも指先からエネルギー波は出すがセイバーは使わないし。また、白い防具の下っ端兵卒・ストームトルーパーも相変わらずレジスタンス軍にあっさり殺されるが、脱走兵のフィンを知った後では、“彼らにも親や兄弟がいるのにな” などとかわいそうになったりもする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

いろいろ気になる場面もあるが、圧倒的な情報量と目まぐるしい展開は予想通りではあったが壮大なサーガに大団円にふさわしい風格。米国のライバルとなった2010年代の中国が、このシリーズに大きな影響を与えているのは明らかだ。再度パルパティーンを復活させて、新たな3部作が始まりそうな予感がする。

監督  J・J・エイブラムス
出演  デイジー・リドリー/アダム・ドライバー/ジョン・ボイエガ/オスカー・アイザック/マーク・ハミル/キャリー・フィッシャー/ビリー・ディー・ウィリアムズ/ルピタ・ニョンゴ/ドーナル・グリーソン/ケリー・マリー・トラン/ヨーナス・スオタモ/アンソニー・ダニエルズ
ナンバー  302
オススメ度  ★★★★


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https://starwars.disney.co.jp/movie/skywalker.html

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方

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やせた土、枯れた池、伸び放題の雑草。都会に住む夫婦が手に入れたのは農地とは名ばかりの荒れた土地だった。だが彼らはあきらめずに土壌を改良し、水源地から水を引き、家畜を放牧して、様々な農作物が収穫できる耕作地に変えていく。農薬は決して使わない。家畜は基本的に放し飼い。動植物や微生物の力を最大限利用する。その徹底的な有機農法は、化学肥料が生み出さされる19世紀以前の古いスタイルに戻しただけなのに、近未来の農場を見ているようだ。カメラは、そんな農業スタイルを追求するカップルに密着、彼らの地道で想像力豊かな生産現場をレポートする。手間もコストも非常にかかっている。ところが彼らに共感する人々は後を絶たず出荷するとすぐに完売、米国における需要の高さが印象的だった。

飼い犬の吠え声がうるさいとアパート追い出されたジョニーとモリーはLA郊外の広大な休耕地を買う。資金集めは順調、指導者を雇い、1年目は農地に果樹を植える準備に費やす。

家畜やミミズの糞は貴重な肥料となり、自家製の堆肥は木々の成長を促す。ほどなく野生の鳥や獣たちが戻ってくると、木の実をかじられたりカモや鶏がコヨーテに襲われたりカタツムリの大量発生で果樹の葉が全部食べられたりと、悩みの種は尽きない。一方で、最初に飼ったメスブタが17匹もの子を次々に生むシーンは、誕生の神秘とともに母の乳首に群がる赤ちゃんブタのかわいらしい姿が重なり、生きるために人間は他の命をいただいていることを実感させてくれる。数年を経て見事によみがえった緑あふれる農地の幾何学模様は、美しさ以上に生命の力がみなぎっていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、より自然と共生する農場という理想に近づくが、まだまだ課題は山積。それでも、肉食鳥獣で害獣害虫を駆除する方法を生み出し、オーガニックのルールは厳守するジョニーとホリー。さらに干ばつや地下水の枯渇、山火事といった災害に見舞われる。開始から8年、ふたりの壮大な実験に寄り添うカメラの視線はあくまでも優しかった。

監督  ジョン・チェスター
出演  ジョン・チェスター/モリー・チェスター
ナンバー  283
オススメ度  ★★★*


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http://synca.jp/biglittle/

再会の夏

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塹壕を飛び出して砲弾をかいくぐり、突撃した先に待っているのは敵の歩兵部隊。小銃を撃つ余裕などほとんどなく銃剣での突き合いになる。泥まみれ血まみれ、第一次世界大戦時の地上戦を再現した戦闘シーンは兵士たちのリアルな恐怖と興奮と痛みが伝わってくる。物語は、戦場で武勲を立て勲章までもらった男がなぜ国家を侮辱する言動を取ったのか、その真相を探る過程を描く。彼は留置場に勾留されている。投げやりな態度は生きる希望を失っているかのよう。戦場で彼の身に何が起きたのか、事情聴取をする担当判事は彼の過去を知るうちに、自分たちの世代が起こした戦争で多くの若者たちが傷つき死んでいったことに思い至る。息子や孫を失った老婆の、祖国に対するやり場のない怒りが “正義” のもう一つの現実を象徴していた。

口を閉ざしたまま背中を向けるモルラックに言葉をかけるランティエ少佐。建物の外では黒い犬がモルラックの帰りを待っている。ランティエは村人たちに聞いて回るがモルラックの評判はいい。

モルラックの恋人・ヴァランティーヌに会いに行ったランティエは、彼に息子がいることを知る。だがモルラックとヴァランティーヌは絶縁状態、なぜそうなったかはふたりとも話さない。ランティエに少しずつ心を開き始めたモルラックはぽつぽつと戦場での体験を語り始める。前線で命を張る兵士は連合国同盟国問わず「インターナショナル」を歌う農民・労働者階級。彼らはロシア革命を機に司令部を無視して勝手に和戦しようとする。このあたり、「連帯」が祖国への忠誠に勝っているなど、社会主義の影響力が強かった時代の影が色濃く反映されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

休戦協定とヴァランティーヌが待つ故郷、二つの場所での行き違いがモルラックの運命を変える。自分は勲章に値する人間か、父親として息子に胸を張れるのか。自責の念を覚え自信を喪失していたモルラックは自問し、否という答えを出している。深く悩む前に人の話をちゃんと聞けという他愛のない教訓は、むしろハッピーな気分にさせてくれた。

監督  ジャン・ベッケル
出演  フランソワ・クリュゼ/ニコラ・デュヴォシェル/ソフィー・ヴェルベーク
ナンバー  301
オススメ度  ★★★


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http://saikai-natsu.com/

影裏

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単身赴任でやってきた見知らぬ町になかなかなじめなかった。職場とアパートを往復するだけの日々だった。そんな時出会ってしまった不思議な魅力の男。物語は、携帯電話は持たないままズケズケと自分の領域に踏み込んでくる男と知り合った青年の、真実を求める過程を描く。突然いなくなってはふらりと現れる。明るく饒舌かと思ったら、陰りのある表情を見せる。おおらかな性格かと思えば秘密めいたところもある。親しいはずなのに決して本心はさらさない。彼と交流するうちに、主人公は恋心を抱くようになる。全編を通して不快な不協和音が通奏低音となり、俳優のアップや何気ないショットにも不穏な空気を孕ませる。緊張感に満ちた演出は、現代人の微妙で壊れやすい人間関係の距離感を象徴していた。

医療物資配送センターで働く今野は飄々とした雰囲気を持つ日浅と言葉を交わす。酒を飲むうちに2人は意気投合、釣りを通じて友情を深めている。ところが日浅は誰にも告げずに会社を辞める。

理由を聞いている者はいない。今野は裏切られた気持ちになるが、しばらくして日浅は何事もなかったかのようにひょっこりと今野のアパートにやってくる。営業マンに転職した日浅は上機嫌でほどなく2人の仲も元に戻る。だが以前の日浅とはわずかだが決定的に違っている。今野は違和感を覚えながらも深くは考えない。今野の性的指向も影響を及ぼしているのか一度吹き始めた隙間風は止まらない。やがて些細なことでの言い合いが2人の間にくさびを打ち込む。大人になってからできた友人、お互いに素性を知らないまま付き合う関係に、本物の感情はこもっているのかとこの作品は問う。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして3・11が過ぎ、職場の訳知りおばさんから日浅が津波被災地で行方不明になったと教えられる今野。さらに、探り当てた日浅の家族から明かされた衝撃の真実。心に闇がない人間などいない、覗き込んだ深淵から見返されるかのごとき不気味さを松田龍平は繊細に演じる。鼻声でぼそぼそ話す姿は松田優作そっくりだった。

監督  大友啓史
出演  綾野剛/松田龍平/筒井真理子/中村倫也/國村隼/永島暎子/安田顕
ナンバー  271
オススメ度  ★★★


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https://eiri-movie.com/

カツベン!

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活動写真の興行がやってくる。弁士になりすました男が村中の人々をスクリーンにくぎ付けにしている間に泥棒たちが有力者の家に忍び込み、金品・現金を盗みだす。上映が終わるころにはトラックで逃走、警察が来る前に姿をくらましている。映画がまだ娯楽の王様だった1920年代、こんな窃盗団がいたとは初めて知った。物語は、サイレント映画末期、活動弁士を夢見る若者の青春を追う。“伝説の弁士” の口舌は完コピできるほど練習した。でも今は窃盗団の片棒を担いでいる。そんな状況に嫌気がさした主人公は、心機一転映画館の雑用係からやり直す。厳しい下積み生活、商売敵の台頭、思いがけず巡ってきたチャンス、そして過去の呪縛。断片をつぎはぎして映写機にかけたフィルムに即興で解説を入れる機転は大いに笑い楽しめた。

大金を持ち逃げした俊太郎は靑木館で働き始める。そこで憧れていた弁士・山岡の落ちぶれぶりに落胆し、代わりに茂木の人気ぶりに目を見張る。だが、茂木は隣町の橘館に引き抜かれる。

橘の手下はかつての窃盗団のボス。偽名で靑木館の弁士となった俊太郎を今も彼は探している。橘はあの手この手で靑木館をつぶそうとするが、そのたびに靑木と俊太郎、山岡の活躍で何とか切り抜ける。その間、俊太郎は幼馴染だった梅子と顔を合わせるが、お互いに外見が変わっている。最初はわからなかったのに、子供のころの癖を覚えていてどちらともなく気づいていたことを明かす。“感動の再会” といった大げささが一切ない演出が粋だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

間抜けな警官、踏み抜いた床、壁に設えられた引き出し、ドアと壁を突き破る巨漢、ペダルのない自転車等々、登場人物の大袈裟なアクション・リアクションは無声映画の喜劇を意識している。ところが、現代のテクノロジーで撮影されたそれらのドタバタ劇からはまったく面白さが伝わってこない。やはり映画で描かれている現実部分と活動写真の部分は分けて考えるべきだった。当時の風俗習慣ファッションが詳細に再現されていただけに残念だった。

監督  周防正行
出演  成田凌/黒島結菜/永瀬正敏/高良健吾/音尾琢真/竹中直人/渡辺えり/井上真央/小日向文世/竹野内豊
ナンバー  296
オススメ度  ★★


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https://www.katsuben.jp/

家族を想うとき

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やっと見つけた仕事は、個人事業主というのは名ばかりの労働搾取。それでも妻子のためと早朝から夜までハンドルを握る。物語は、フランチャイズの宅配ドライバーになった男が家族との絆を失っていく過程を描く。失業中は子供たちの話も聞いてやれた。生活保護を受給するのはプライドが許さない。ところが自分の力で人生を立て直そうと頑張れば頑張るほど、妻や息子・娘との間に溝ができてしまう。さらにのしかかるローンの返済と制裁金。長時間拘束に日常はとげとげしくなるばかり、けれど立ち止まるわけにはいかない。全編に漂う息苦しさとやるせなさ、明るい将来をまったく想像できない張り詰めた映像は、胸を締め付けられるような切なさを伴う。トイレ用のペットボトルが不幸な未来を暗示する。

配送センターの請負業務を始めたリッキーはバンを買うために妻・アビーのクルマを売る。雇い主に文句も言わず精勤するリッキーだったが、高校生の長男・セブが暴力事件を起こし停学になる。

配送ルートやスケジュールは携帯スキャナーで厳密に管理されていて、例外的な行動は筒抜け。やがてセブの学校の校長から呼び出されても面談に間に合わず、アビーの介護ワークにも支障をきたす。もはや仲の良かった一家の心はバラバラ、だが小さな収入を得るためにリッキーは小包を運び続ける。このままでは破綻するのは明白、にもかかわらず目を背け、希望を信じている。気は短いが曲がったことや犯罪行為には絶対に手を出さないリッキーのモラルの高さ、それは彼自身が自らに課した、人間らしく生きるための最後の防壁なのだ。配達を積極的に手伝う利発な娘の笑顔がわずかな救いだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も負のスパイラルは深度を増し、リッキーもアビーも子どもたちも限界。正しいと思ってやってきたのにいつしか家庭は崩壊している。そして初めて非を認めるリッキー。なのに、非を認めたからこそ彼は己を罰するように働こうとする。自己責任というにはあまりにも重すぎる現実は正視しているのがつらかった。

監督  ケン・ローチ
出演  クリス・ヒッチェン/デビー・ハニーウッド/リス・ストーン/ケイティ・プロクター/ロス・ブリュースター
ナンバー  298
オススメ度  ★★★*


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https://longride.jp/kazoku/

ジュマンジ ネクスト・レベル

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なりたいキャラになるはずが、まったく期待外れの能力しかないキャラになってしまった。一方で万能の鉄人になったのは足腰の弱ったおじいちゃん。現実とは共通点のないアバターに転生した彼らは、今回も世界を救うために、いや、自分たちが無事帰還するために死力を尽くす。物語は、いわくつきのビデオゲームに引きずり込まれた若者を助け出すために、友人たちと老人たちもそこに飛び込み、課題をクリアしていく姿を描く。ラスボスは残虐な王、巨大なパワーと悪辣な意思を具えている。彼に奪われた秘宝を奪い返さなければならない。それぞれが長所と弱点を補いあいながら協力、その過程で絆を深めていく。ダチョウそしてマンドリル、凶暴な野生動物が群れになって襲い掛かかってくるシーンは圧倒的なスリル、思考停止になった。

ジュマンジで消息を絶ったスペンサーを追ってフリッジとマーサも突入、だが、エディとマイロの2人の老人も巻き添えを食う。ゲームの中で生まれ変わった4人は各々の設定をチェックする。

頑健な肉体を得たエディはやる気満々。彼との間にわだかまりを抱えるマイロは賢者のように落ち着いている。きっと若い時も先走るエディを抑えるのがマイロの役割だったのだろう。砂漠での難を逃れオアシスに到着した4人は女泥棒になったスペンサーと再会、倒すべき敵・ユルゲンを目の当たりにする。もう寿命が尽きかけているのは自覚している、死ぬのも怖くない。ならば健康な体を手に入れたバーチャル空間でもう一度思いっきり暴れようと張り切る老人たちの、精神的な若返りが共感を呼ぶ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ベサニーとアレックスを加えて6人と1匹になった一行はユルゲンの要塞に忍び込み、彼が持つ秘宝を奪還しようとする。ところが、ユルゲンは頑強で破壊力も抜群。正面からガチンコ勝負を挑んでも勝ち目はなく、知恵と勇気とチームワークで対抗する。老人たちを見ていればわかる、命がけの修羅場を乗り越えた若者たちの友情は、年齢を重ねてもずっと続くと予感させてくれる。

監督  ジェイク・カスダン
出演  ドウェイン・ジョンソン/ジャック・ブラック/ケビン・ハート/カレン・ギラン/ニック・ジョナス/オークワフィナ/アレックス・ウルフ/モーガンターナー/サーダリウス・ブレイン/マディソン・アイスマン/ダニー・グローバー/ダニー・デビート/コリン・ハンクス
ナンバー  297
オススメ度  ★★*


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