こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

再会の夏

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塹壕を飛び出して砲弾をかいくぐり、突撃した先に待っているのは敵の歩兵部隊。小銃を撃つ余裕などほとんどなく銃剣での突き合いになる。泥まみれ血まみれ、第一次世界大戦時の地上戦を再現した戦闘シーンは兵士たちのリアルな恐怖と興奮と痛みが伝わってくる。物語は、戦場で武勲を立て勲章までもらった男がなぜ国家を侮辱する言動を取ったのか、その真相を探る過程を描く。彼は留置場に勾留されている。投げやりな態度は生きる希望を失っているかのよう。戦場で彼の身に何が起きたのか、事情聴取をする担当判事は彼の過去を知るうちに、自分たちの世代が起こした戦争で多くの若者たちが傷つき死んでいったことに思い至る。息子や孫を失った老婆の、祖国に対するやり場のない怒りが “正義” のもう一つの現実を象徴していた。

口を閉ざしたまま背中を向けるモルラックに言葉をかけるランティエ少佐。建物の外では黒い犬がモルラックの帰りを待っている。ランティエは村人たちに聞いて回るがモルラックの評判はいい。

モルラックの恋人・ヴァランティーヌに会いに行ったランティエは、彼に息子がいることを知る。だがモルラックとヴァランティーヌは絶縁状態、なぜそうなったかはふたりとも話さない。ランティエに少しずつ心を開き始めたモルラックはぽつぽつと戦場での体験を語り始める。前線で命を張る兵士は連合国同盟国問わず「インターナショナル」を歌う農民・労働者階級。彼らはロシア革命を機に司令部を無視して勝手に和戦しようとする。このあたり、「連帯」が祖国への忠誠に勝っているなど、社会主義の影響力が強かった時代の影が色濃く反映されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

休戦協定とヴァランティーヌが待つ故郷、二つの場所での行き違いがモルラックの運命を変える。自分は勲章に値する人間か、父親として息子に胸を張れるのか。自責の念を覚え自信を喪失していたモルラックは自問し、否という答えを出している。深く悩む前に人の話をちゃんと聞けという他愛のない教訓は、むしろハッピーな気分にさせてくれた。

監督  ジャン・ベッケル
出演  フランソワ・クリュゼ/ニコラ・デュヴォシェル/ソフィー・ヴェルベーク
ナンバー  301
オススメ度  ★★★


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