こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カナリア

otello2005-03-21

カナリア


ポイント ★★★*
DATE 05/3/15
THEATER アミューズCQN
監督 塩田明彦
ナンバー 32
出演 石田法嗣/谷村美月/西島秀俊/甲田益也子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


退路を断った人間はたとえ子供でも強い。立ち止まっていては何もない。ただ前に走ることでしか道は開けてこない。失うものがない人間は勇気がある。今以上の事態の悪化がないと分かれば先に進むことを選ぶ。元カルト信者の少年と親に見捨てられた少女。彼らは必然的に出会い、運命的な導きの元で長い道行きをともに歩む。その逃避行の中で少年は自分の人生を振り返るのだが、12歳の少年に見つめなおすほどの人生があるはずもなく、そこにはただカルト教団で過ごした日々と消息不明の母親への思いがあるだけだ。


テロを起こしたカルト教団から保護された光一は関西の児童相談所を脱走、祖父に引き取られた妹を探しに東京に向かう。途中、援交中の少女・ユキと出会い行動をともにする。途中、光一の脳裏をよぎるのはカルト教団の施設内で過ごした修行の日々。やがて東京に着いた光一は、そこにはもう妹たちがいないことを知る。


12歳という大人と子供の端境期の少年を主人公にしたことが、この作品に奥行きを持たせ物語にリアリティを与えている。カルト教団の教えを盲信する一方で完全に帰依するほど家族愛は捨てていない。余計な情報をインプットされていない分純粋だが、外界に出たときに手に入れた情報をきちんと処理する能力も持っている。これがもう少し大人ならカルトへの反省や、もしくは盲信に不毛な理論が付け加えられたに違いない。色眼鏡を通さずに見たカルト教団の実態、ここを克明に描いたからこそこの作品が説く世界観に真実が生まれ、少年の行動原理も説得力を持つ。


ただ、少し冗漫な感じは否めない。逃避行の途中にレズカップルに出会うが、このエピソードは必要だっただろうか。一方の女性の子供のことで痴話げんかが始まってこのカップルは別れるのだが、それが少年の記憶を呼び覚ます起爆剤としては弱い。このあたりをすっきり整理して上映時間をもう少し絞り込めば、緊張感が最後まで持続しただろう。

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