こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アリスとテレスのまぼろし工場

痛いはずなのに痛くない。寒いはずなのに寒くない。もうみんな知っている。でも言葉に出すのが怖くて気づかぬふりをしている。物語は、他の土地から孤立し住人全員の肉体的変化が止まってしまった町に住む中学生たちの葛藤を描く。どこにでも自由に行け、時間もきちんと流れる世界に必ず戻れると信じることを強制されている。思考停止に陥った大人たちと、人生を取り戻したい子供たち。不老不死の肉体を手に入れたのに、幸せになるどころかうんざりした気分だけが積み重なっていく。そんな時出会った、成長する少女。彼女はいったい何者なのか、どこからやってきたのか。その答えは、果たして希望につながるのか。ひび割れた空とガラス片のように砕けていく風景が、変化しない常識や価値観はやがて崩壊すると訴える。

クラスメートの睦美に連れられて廃高炉を訪れた正宗は、そこに閉じ込められていた少女にイツミと名付け世話係を引き受ける。イツミは町の人間とは違う肉体と精神を持っていた。

人々は性格だけでなく好き嫌いや習慣を変えることを禁じられている。町の指導者的な地位にある睦美の父・佐上だけは真実を理解しているが、秘密にしなければ町の平和が乱れると妄信している。昨日と変わらぬ今日を、今日と変わらぬ明日を迎えることがいちばん大切。元通りになった時に備える彼らの硬直した思考は、邪神をあがめるカルト教団のような不気味さだ。平凡な日常が繰りかえされるほどに、真水に汚染が広がっていくような不快さを覚えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

人の心が乱れると空がひび割れ外側の “現実” が垣間見える。だがすぐに狼の形をした煙が修復する。だが、正宗はイツミと交流していくうちに、違和感の正体を見抜く。すべては実体のない感覚、肉体を持たない観念。生まれ育ち恋をし愛を知り子供を作って死んでいく。そんなごく当たり前の生活こそが人間にとってかけがえのないもの、未来を失った人々の哀しみがファンタジックに再現されていた。

監督     岡田麿里
出演     榎木淳弥/上田麗奈/久野美咲/八代拓/畠中祐/小林大紀/林遣都/瀬戸康史
ナンバー     174
オススメ度     ★★*


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