ポイント ★★*
DATE 06/5/20
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 ロン・ハワード
ナンバー 77
出演 トム・ハンクス/オドレイ・トトゥ/イアン・マッケラン/ジャン・レノ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
原作を堪能した人間には具象化した「聖杯」や「イエスの子孫」があまりにも陳腐なものに見えただろう。ローマ教皇がいかにして原始キリスト教の教義をゆがめて世俗支配の道具に利用してきたかを告発する内容こそが原作を世界的ベストセラーたらしめてきたのに、その部分はイメージ映像と登場人物のセリフで簡単に処理している。かといって冒険活劇ではないのでスリリングな展開とはいいがたい。結末を知っているミステリーほどつまらないものはないということをあらためて認識した。
ルーブル美術館長が孫娘のソフィーに暗号を残して殺される。ソフィーは殺人事件の容疑者である記号学者・ラングドンと共に暗号を解くうちにキリスト教にまつわる壮大な秘密が「聖杯伝説」に隠されていたことを知る。ふたりは秘密を守ろうとする秘密結社と警察に追われ、さらに信じがたい事実に遭遇する。
イエスがマグダラのマリアとの間に子をなしたという仮説は「ありそうな話」としてイマジネーションを刺激する。しかし、彼らの血脈が現代にまで受け継がれているなどという荒唐無稽さは小説で読んでいる限り笑い飛ばせるのだが、映画ではその部分がクライマックスとなっている。「熊沢天皇」や「アナスタシア」ならまだしも、やはりイエスの子孫というのはホラ話としてもスケールが大きすぎて、もはや失笑を禁じえない。映像化することで原作の欠点を浮き彫りにする形になってしまった。
キリスト教にまつわる裏の歴史とラングドン・ソフィーの逃避行という、原作の膨大な情報量を2時間20分ほどにまとめるにはかなり無理がある。ならば最初から「聖杯」の正体を明かした上での争奪戦アクションにするくらいの割りきりが必要だ。教養としてもエンタテインメントとしても中途半端、何よりタイトルになっているダ・ヴィンチの映画へのかかわり方が少ないことが、この作品を映画化する難しさの記号として機能しているのはあまりにも皮肉だ。