こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

インランド・エンパイア

otello2007-07-27

インランド・エンパイア INLAND EMPIRE



ポイント ★★
DATE 07/7/24
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 デヴィッド・リンチ
ナンバー 146
出演 ローラ・ダーン/ジェレミー・アイアンズ/ジャスティン・セロー/ハリー・ディーン・スタントン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


それはまるで妄想の中で見る幻覚、夢の中での覚醒。理解しようともがけばもがくほど不条理の鎖にがんじがらめに縛られて、底なしのぬかるみの中に落ちていくかのよう。先に進んだつもりでいても元の位置の裏側に戻っているメビウスの環のよう。困惑と混乱の中で、映画と現実の境目の区別がつかなくなったヒロイン同様、脳内物質が脈絡もなく作り出すような不可解なヴィジョンの連続に疲れ果て、考えることを放棄して映像の流れに身を任せたとたんに得る快感。それこそがデヴィッド・リンチが目指したものだろうが、最後まで付き合うには相当な忍耐が必要とされる。


映画女優のニッキーは新作の撮影に入るが、それはかつて2人の関係者が死んで制作中止となった呪われた作品のリメイク。不思議なことが続いて起き、やがてニッキーは映画の中で演じるスーザンという役と現実を混同するようになる。


あらゆるシーンが思わせぶりですべてのセリフが挑発的。手持ちカメラのアップの多用は不安感を煽る。その先に何らかの答えが用意されているわけではなく、その意味はまったく不明。映画はニッキーが体験する現実世界での共演者との不倫と撮影中の映画のストーリー、そして呪われた映画のシーンを複雑に交錯させ、巻き戻し、早送りにする。その認識の主体はあくまでニッキー自身で、彼女の受けた刺激や感覚がやや正気を失った精神に攪拌されるゆえに、ドラッグでトリップしているかのよう。しかし、それに心地よさを感じるようになるまでには何度も嘔吐感を覚えなければならない。


結局、映画は無事完成、ニッキーの迫真の演技は評価され、更なる名声を得る。映画を作るということはその映画に関わったすべての人の精神を蝕むということを言いたかったのだろうか。まあ、3時間の長丁場、途中で居眠りしてもトイレに立っても、物語が分からなくなるということがないのは、この作品の明確な長所ではあるが。。。


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