こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

きっと ここが帰る場所

otello2012-05-19

きっと ここが帰る場所 THIS MUST BE THE PLACE

オススメ度 ★★★★
監督 パオロ・ソレンティーノ
出演 ショーン・ペン/フランシス・マクドーマンド/ジャド・ハーシュ/イヴ・ヒューソン/ケリー・コンドン/ハリー・ディーン・スタントン/ジョイス・ヴァン・パタン/デヴィッド・バーン
ナンバー 116
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

鮮やかな口紅と濃い目のアイライン、ボサボサのヘアスタイルだが老眼鏡を手放せない。できそこないの魔女のごとき風貌からは想像できないおっとりとした話し方、端正な映像からはみ出した間抜けなエピソードの数々、つかみどころのない雰囲気なのにいきなりハートを鷲掴みする展開、映画は驚きと不安の中にも奇妙な安心感を醸し出し、愛に満ちた復讐劇に昇華されていく。感情をほとんど見せず、浮世離れした主人公をショーン・ペンが怪演、この何ものにも似ていない作品に命を吹き込んでいる。

引退したロックスター・シャイアンはダブリンの豪邸で妻と二人暮らし、友人・知人と気ままに時間をつぶしている。ある日、30年以上音信不通だったNYに住む父が危篤との知らせが入るが、シャイアンは客船で見舞いに向かう。

もともと父と顔を合わせたくなかったシャイアンは当然臨終に間に合わない。葬儀後に父の残した日記を目にしたことから、知らなかった父の一面を見る。ホロコーストの生き残りで、生涯をかけて収容所のナチ将校を探していたらしい。シャイアンは父の遺志を継ぎ、手掛かりを元にナチ探しを始める。ここで物語は一気に方向転換するが、先を急がないシャイアンは決して加速せずクルマでの旅を続ける。走行距離は数千キロにも及ぶが、ナチの妻や娘と交流していくうちに今まで自分が気付かなかった家族が家族を思う心に触れ、シャイアンは父との関係を見直していく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

大胆な省略と余白はシャイアンの気持ちを饒舌に語る一方、計算された構図と彩り深い豊饒なヴィジュアルはイマジネーションを刺激する。特にマジックのようなD・バーンのライブをワンカットで撮り下ろすシーンは、ステージの仕掛けがわかるまで迷路に迷い込んだ気分になる。その凝りに凝った表現術にも目を奪われた。そして、子を愛さない父はいないと、子のいないシャイアンが気づき、父へのわだかまりを解いてフツーのオッサンに収束していく姿に限りない優しさを覚えた。

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