北辰斜にさすところ
ポイント ★★
DATE 08/1/3
THEATER シネマスクエアとうきゅう
監督 神山征二郎
ナンバー 2
出演 三國連太郎/緒形直人/林隆三/佐々木愛
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
旧制高校の学生寮、そこはバンカラの気風が残る世界。友情と男気を育み、先輩後輩の関係は絶対。そんな古きよき時代を懐かしみ、失われた価値観を若い世代に伝えようとしているのかと思わせておいて、実はジイさん連中のセンチメンタルな思い込みを中途半端に描いているだけ。主人公が野球の元名選手で、旧制高校の流れを汲む大学同士の野球の対抗戦というメインイベントがありながら、野球に対する愛情がほとんど伝わってこなかったのは残念だ。
鹿児島の七高に進学した上田は学生寮に入寮、さまざまな出会いを通じて成長していく。特に草野という先輩とは親友ともいえる仲となるが、草野は寮生の身代わりになったことから留年、上田のほうが先に卒業する。そして戦争が始める。
年老いた上田が過去を回想する過程で、五高と七高の対抗戦100周年の記念行事に向けての準備が進んでいく。かつて七高のエースだった上田は旧友たちから熱心に誘われるが、上田は固辞する。その気持ちの陰で、上田が人生において犯した最大の罪を償うためにいかに苦悶して生きてきたかを、三国連太郎は険しい表情で演じる。それは戦場で見殺しにした草野に対する想いなのだが、ならば草野がかつて命がけで自分を救ってくれとか、草野との関係をもっと濃くしておくべきだろう。上田が非常に責任感の強い男だというのはよく分かるが、学生時代の描写からは生真面目な男という印象以外は受けない。
七高の校歌を歌うシーンがたびたび出てくるが、学生たちが焚き木を囲んで歌い踊るシーンはともかく、老人たちまでが歌いだすと七高にゆかりのない人間はしらけるばかり。そんな過剰な母校愛よりも青春のきらめきや高揚感を描き、美しい記憶も蹉跌もすべて戦争によって押しつぶされたというくらいの強い主張があってもよかったはずだ。また、せっかく野球という普遍的なテーマがあるのに、野球の思い出を語り合うシーンも少なく、上田が好投手だったことを示す具体的なエピソードがまったくなかったのには理解に苦しむ。