こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

その名にちなんで

otello2008-01-10

その名にちなんで THE NAMESAKE


ポイント ★★★
DATE 08/1/5
THEATER シャンテ
監督 ミーラー・ナーイル
ナンバー 3
出演 カル・ペン/タブー/イルファン・カーン/ジャシンダ・バレット
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


貧しさから故国を捨るのではなく、実家の援助と知的労働で人生を切り開いていくインド人移民。もちろん勤勉で優秀なのだろうが、彼らは外国での生活の苦労や搾取などからは無縁で、わずかに白人の異民族に対する偏見が見え隠れする程度だ。二世代にわたるファミリーの歴史を、ことさら民族の苦難を強調することなく淡々と描くところに好感が持てた。インド人のコミュニティを作り風俗習慣を守っているのに米国社会から受け入れられているのは、彼らのインテリジェンスのおかげなのだろう。


米国留学中の学生アショケはアシマと見合い結婚、2人はニューヨークで暮らし始める。やがて男の子が生まれアショケは彼にゴゴルと名づけるが、成長したゴゴルはその名がロシアの作家にちなんだものと知り、インド名を名乗るようになる。


アショケもアシマも高等教育を受けていて、彼らの交友関係にある家族も裕福で知的水準が高い上流のインド人。一家でインドに戻ったときに、貧富の差を当然として育った親の世代と、米国生まれで自由と平等を当然として育ったゴゴルのセンスの違いがジェネレーションギャップを感じさせる。インド風を子供たちに強要せず、米国人として育てたアショケとアシマは物分りのよい親。だからこそ本当はインドの伝統を受け継いでもらいたいという両親の気持ちをゴゴルはアショケの死をきっかけに気付き、自らの体に流れるインド人の血を自覚し始める。


たとえ人生の大半を異国で過ごしても、人は最期には故郷に戻ろうとする。アショケの遺灰はガンジスに撒かれ、アシマもガンジスのほとりで歌う。ゴゴルにとってはニューヨークが故郷だが、彼もまた父と同じく自分探しの旅に出る。米国人でありながらインドを意識せずには生きていけないという、アイデンティティの曖昧な移民2世の複雑な感情が非常にリアルに描けていた。ただ、アショケが瀕死の重傷を負った列車事故に遭ったときにゴーゴリの「外套」を読んでいたことがゴゴルの名の由来なのだが、「外套」の内容がこの物語にとって何の伏線にもなっていないところに不満が残る。


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