ロルナの祈り Le Silence de Lorna
ポイント ★★★*
DATE 08/11/14
THEATER 映画美学校
監督 ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
ナンバー 278
出演 アルタ・ドブロシ/ジェレミー・レニエ/ファブリツィオ・ロンジョーネ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
優しさゆえに弱い男を愛してしまい、罪の意識ゆえにその男の痕跡を残そうとする女。何度も立ち直ろうとしては挫折する男にうんざりしながらも、頼りにされると彼を突き放すことができない。そんな、腐れ縁のような関係のカップルに隠された殺意。東欧から豊かな生活を夢見てベルギーに来たものの、カネのために犯罪に手を染めてしまい、それでも最後の良心だけは命がけで守ろうとするヒロインの切実な行為が哀しいほど美しい。
ベルギー国籍を得るためにドラッグ中毒のクローディと偽装結婚しているロルナは、不法移民斡旋組織がクローディを殺そうとしているのをなんとかやめさせようとする。やがて速やかに離婚するめどが立ち、クローディを助けるよう組織に懇願する。
意志薄弱で頭も悪そうなクローディはなんとかロルナとの絆を深めようとするが、ロルナは組織の計画を隠さなければならない。クズのような人間でも決して悪人ではないクローディを哀れに思う気持ちが芽生えてしまい、彼が無事なまま離婚できるようにDVを自作自演する。さらに、食事をすっぽかされ再びドラッグに手を出してしったクローディをロルナが抱きしめるシーンは、社会の底辺で暮らす人々はお互いを頼らなければ生きられなというつらさが非常にリアルな感情で表現されている。
自転車で走り去るクローディの後ろ姿の後、場面はいきなり彼の遺品を整理するロルナに切り替わる。大胆な省略が彼女の受けたショックの大きさを物語る。その後も組織は彼女に付きまとい次の仕事を紹介しようとするが、ロルナはクローディを見殺しにした行為に対する贖罪のように空想を膨らませていく。その後カネのことしか頭にない恋人や、自分も始末しようとする組織の手から逃れたロルナは、深い眠りに落ちる。まるで眠っている間だけ、不満や不正や不安に満ちた現実を忘れられられるかのように。ロルナもまた弱くて力もないけれど、最低限のモラルだけは捨てまいと必死であがいている。彼女の妄想は、その小さな願いさえ踏みにじってしまう経済至上主義的風潮に対する、せめてもの抗議行動なのだ。