こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヘブンズ・ドア

otello2009-02-08

ヘブンズ・ドア

ポイント ★★
DATE 09/2/7
THEATER CC
監督 マイケル・アリアス
ナンバー 32
出演 長瀬智也/福田麻由子/長塚圭史/和田聰宏
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ソファでまったりしている男の横で、少女が買ってきた洋服を次々と着替えてみせる。男の時間は通常の進み方なのに少女のファッションショーは早送り、そのふたつをを同じフレームの中で見せるという非常に斬新な表現が印象に残る。それ以外にも水槽を浮遊するクラゲ、失神する男が見るビジョンなど、さまざまなシーンで洗練されたシャープな映像を見せてくれる。しかし、そこで繰り広げられる物語は説得力に乏しくオリジナルのドイツ映画の骨格をなぞっているだけ。ひと組の男女が死に向かう過程で、もっと生に対する切実さを描かないと、何の共感も得られない。


脳腫瘍であと3日の命と宣言された勝人は緊急入院、骨肉腫で余命3か月の春海という少女と出会う。勝人は、ずっと病院暮らしで海を見たことがないという春海を連れ出して、盗んだ車で逃走するが、立ち寄ったガソリンスタンドで強盗を働き警察に追われる身となる。


「人生の最期くらい気の利いたエンディングがほしくなった」と勝人は口にするが、そんなセリフは真面目に生きてきたにもかかわらずうだつの上がらなかった人間の言うこと。自分勝手でぐうたらなフリーターにはそぐわない。しかも、春海に海を見せると言いながら、なぜか直接向かわずに原宿でショッピングする。病院の地理的な位置は特定できないが、東京まで来る途中でどこかの海岸に出られなかったのか。ガソリンスタンドを襲った時点で警察に追われることは分かっているはずなのだから、普通は寄り道など考えられない。


勝人が春海を誘拐したと思っている刑事が、勝人を助けようとした春海のことを「ヘルシンキ症候群ですかね」という場面は元ネタに忠実だが、その場にいた先輩刑事に「ストックホルムだろ」とツッコミを入れてほしかった。そして、結局勝人は音信不通だった母に会いたかっただけというお粗末さ。だがここでも母に言葉をかける勇気はなく、ビーチで春海の肩にもたれて息絶える。やはり思い切ってコメディタッチかファンタジーにするくらいのアレンジがないと、この退屈な脚本で2時間近い上映時間を持たせるのは困難だろう。


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