こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パッセンジャーズ

otello2009-02-19

パッセンジャーズ PASSENNGERS

ポイント ★★*
DATE 08/12/16
THEATER FS汐留
監督 ロドリゴ・ガルシア
ナンバー 304
出演 アン・ハサウェイ/パトリック・ウィルソン/デビッド・モース/クレア・デュバル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


暖色を廃した寒々とした映像はどこか現実感に乏しく、ヒロインが体験するさまざまな事件も奇妙な感覚に包まれている。他の登場人物にも一貫性がなく、笑顔の下に一物を抱えていそうだ。彼女はいったいどこにいて、何を探しているのか。航空機墜落事故の生存者の心のケアを担当することになった若い女医が、聞き取り調査をしていくうちに真相に近づいていく。その過程はあくまでミステリアスで、謎が謎を呼ぶような構成。立ち位置が不安定なまま己の直感を信じて突っ走る彼女の知覚がリアルに再現される。


海岸に不時着した旅客機から奇跡的に数人の男女が助かる。彼らのセラピーを頼まれたクレアは、エリックという男の行動に翻弄されていくうちに、いつしか惹かれていく。やがて、生存者が一人また一人と姿を消し、背後に航空会社の男の影がちらつき始める。


墜落原因は事故なのか操縦ミスなのか。生存者の証言は食い違い、さらにもみ消し工作まで行われる。一方で精神科医であるクレアを手玉に取るようなエリックの言動。それらは、世界を背後で何か大きな力が操っているような違和感に包まれている。夢と真の境界線でゆらいでいるような感覚。それは生命の危機を感じるほどの経験をした者に芽生える「超感覚的知覚」なのか。物語は科学的なアプローチを一切捨てて、クレアの主観を追うことで見る者をさらなる混乱にいざなう。


叶えられなかった願い、伝えられなかった思い。死に直面した時に脳裏に浮かぶのはやり残したことへの後悔。そうしたものが清算されて初めて人は自分の死を受け入れる。クレアはケンカ別れしたままの姉とずっと仲直りしたがっていたが、その気持ちを手紙で届けることに成功する。結局、クレア自身も事故の犠牲者で、成仏できずに現世をさまようという「シックス・センス」的なオチにはいささか肩透かしを食ったが、映画が持つ不思議な雰囲気は肉体を失ったクレアの魂の彷徨であると考えると、死をまだ実感できない人間の気持ちがうまく表現されていた。


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