セントアンナの奇跡 Miracle at St. Anna
ポイント ★★★★
DATE 09/7/1
THEATER SG
監督 スパイク・リー
ナンバー 156
出演 デレク・ルーク/マイケル・イーリー/ラズ・アロンソ/オマー・ベンソン・ミラー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
米国内では二級市民、戦場では消耗品扱いされる黒人米兵。まだ米国に人種差別が強く残っていた第二次大戦中、彼らは自分たちの能力と勇気を証明したくて銃を取り、ドイツ軍と戦う。しかし、前線に横たわる現実は、白人上官の無理解と、偏見のない現地の住民、さらにドイツ軍には良心を失っていない兵卒や黒人兵にも敬意を示す士官がいる。彼らにとって前線は死の恐怖とは隣合わせでも、祖国にいるよりはるかに自由と充足を感じるという皮肉。そして無垢ゆえにもたらされた奇跡は、壮絶な殺しあいの中でひととき心に安寧をもたらす。人はどんなに絶望的な状況であっても信じること救われる、この作品はそんな思いを映像に込めた壮大な寓話だ。
イタリア戦線に投入された黒人部隊の4人は、地元の少年を助けたことから本隊とはぐれ、山中の小さな村にたどりつく。少年は体の大きなトレインを慕い、無線機を直したことから他の兵たちにも受け入れられる。ある日、パルチザンの一行がドイツ兵の捕虜を連れて山から下りてくる。
物語は1984年のNYで起きた殺人事件に始まり、犯人が持っていた美術品の謎を解くという形で始まる。殺された男、見つかった彫像、事件を知った紳士とまったく無関係と思える要素を示したうえで1944年のイタリアに舞台を移す。その過程で当時の米国黒人兵が抱えていたジレンマを浮かび上がらせることで、人種差別がいかに無意味なものかを浮き彫りにしていく手法は手慣れたもの。味方の裏切りだけでなくドイツ兵の善意も知ることとなり、敵味方という単純な価値観だけでは割り切れない複雑な人間関係が描かれる。そんななかで少年とトレインだけは人間的な醜さと一線を画して目に見えない力を信じている。彫像に象徴される善と美、まるで二人だけがその秘密を共有するかのごとく、言葉は違うのに意思を通じ合わせている姿がおとぎ話のように美しい。
殺人事件の始まりともいえるイタリアでの戦争が終わり、再び84年に戻るが、そこでやっとパズルのピースが埋まるように事件の全貌が明らかになる。犯人と被害者、凶器のピストル、彫像の頭部、匿名の保釈金。映画はミステリーの様相をまといながらも、人間性の勝利を高らかに歌い上げる。スパイク・リーの集大成ともいえる逸品だった。