こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

蟹工船

otello2009-07-05

蟹工船


ポイント ★★*
DATE 09/7/4
THEATER WMKH
監督 SABU
ナンバー 159
出演 松田龍平/西島秀俊/高良健吾/新井浩文
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


窓はなく、むき出しの鉄の壁に圧迫されるような薄暗い部屋で、積み上げられた太い管の中だけが独りになれる唯一の空間。作業場で与えられる仕事は、考えることが一切不要な完全な流れ作業の中の単純な肉体労働。監視の目は厳しく手を休めると容赦なく杖で殴られる。凍てつく海の上に浮かぶ工場船の労働者に与えられた劣悪な環境は、まるで脱出不可能な強制収容所のようだ。映画は、「おい地獄さ行ぐんだで!」という有名な原作の書き出しを見事なヴィジュアルで再現する。


カムチャッカ沖で操業する博光丸の労働者は、あきらめの中で現場監督の浅川の暴力に耐えながら重労働を強いられていた。時間や曜日の経過すら分からず獲ったカニを船内で缶詰に加工する日々に嫌気がさした労働者の1人・新庄は皆に夢を語らせた後に集団自殺を扇動する。


考えて、行動する。そんな当たり前のことすら頭に浮かんでこないほどの深い諦観。労働者は生まれた時から貧乏を強いられ、それが従前のことのように受け止めている。彼らの意識の中には自分で運命を切り開いていく意思が決定的に欠けている。資本家の理論と搾取される側の無力感、蟹工船という狭い世界に凝縮された行き過ぎた資本主義を、SABU監督は現代的なセンスでよみがえらせようとしているのだが、金持ちの家に生まれ変わる夢やロシア漁船でのパーティシーンなどあまりにもイマジネーションが安っぽくて貧弱。70年代の独立プロ系作品を見ているようだった。


やがて新庄は皆から集めた血判状を船主につきつけストを決行する。歯車の中心部に人の手をデザインした労働者の団結をシンボライズした鉢巻をしめて。その新庄を演じた松田龍平が、時折見せる他人の心を見透かしたような凄みのある視線や、少し力を抜いたような話し方など、驚くほど松田優作の面影を宿している。さらに彼独自の境地を切り開けば父親を超える俳優になるのではと期待させる鬼気迫る演技だった。


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