白夜
ポイント ★★
監督 小林政広
ナンバー 195
出演 眞木大輔/吉瀬美智子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
遠い異国の見知らぬ街で出会った男と女。列車の出発時間までふたりの会話だけで進展する物語は、「恋人たちのディスタンス」を連想させるが、この映画で発せられるセリフの数々には知的な言葉遊びもエスプリの効いた引用もなく、ただありふれた身の上話が繰り広げられるのみ。しかも世界遺産に登録されている街並みを誇る都市を舞台にしているのに、古い歴史や住人の人情といったその地の魅力を描こうという意図はゼロ。これではわざわざフランスまで行かなくても、日本国内のロケでよかったのではないだろうか。
冬のリヨン、市内を流れる川に架かる赤い橋にたたずむ女に、「日本人?」と男が声をかける。女は不倫相手を追って単身渡航、男は気ままな旅を続けるバックパッカー。男の無遠慮な問いかけに最初は不快感をみせる女だが、男の屈託のなさに徐々に胸襟を開いていく。
初めて男が女に声をかけたときのやり取りが、テンポのよい掛け合いのようで楽しめる。ずけずけと女の内面に踏み込む男に対し、女は図星を突かれていることが気に食わず強がって反発する。嫌悪感の中にも理解されていると感じた彼女がやがて心の鎧を脱ぎ、眉間のしわがとれていく様子がその後の展開を期待させる。しかし、橋に立っていた事情を男に打ち明けるあたりからたちまちトーンダウン、ふたりの間で交わされる言葉は手あかのついたエピソードの羅列に終始する。
さらに、せっかく女がドレスアップしたのにそれに見合う場所にはいかず、入ったレストランでもフランス料理を堪能せず寿司を食べる。それらのシーンには異国情緒のかけらもなく、唯一白夜を見ようという約束がヨーロッパに居ることを意識させる。ところが、ふたりの間にやっと絆が生まれたと思うと、またそこでも不可解な別れ方をする。それは気持ちのすれ違いで説明できる類のものではなく、気まぐれにしか見えない。そして、唐突に女は恋人の幻を追って橋から身を投げる。平板なストーリーに無理矢理感情のヤマ場を取ってつけたような強引な終わり方は、あくまでも陳腐だった。