マダム・マロリーと魔法のスパイス
THE ONE HUNDRED-FOOT JOURNEY
監督 ラッセ・ハルストレム
出演 ヘレン・ミレン/オム・ブリ/マニシュ・ダヤル/シャルロット・ルボン/
ナンバー 260
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
たとえ異国でも自分たちの習慣を変えようとしないインド人。自国の文化こそ最も洗練されていると疑わないフランス人。道路一本隔てただけなのに心理的な距離は果てしなく遠い。だが若い世代の料理への思いが溝を埋めていく。物語は南仏の小さな町、伝統的なメニューを売りにする格式高いレストランの前に、移住してきたインド人一家が料理店を開いたことから起こる軋轢と和解を描く。子供たちの現在と未来にも決定権を握るガンコな父が個人主義に接し、孤独な皮肉屋の女主人が結束の固い家族に触れるうちにお互いを理解していく過程は、表面が固く中はやわらかいクレームブリュレのように心を甘く温めてくれる。
幼いころから母のもとでコック修行を続けてきたハッサンは、父や兄弟と共に新天地を求めフランスにたどり着く。父はマロリーが経営するレストランの正面の建物を買いインド料理店を開業するが、マロリーは食材を買い占めて邪魔をする。
商売仇同士のビジネス上の“戦争”が過熱する一方で、ハッサンはマロリーの下で働く美しいコック・マルグリットに恋をする。フレンチを学ぼうとするハッサンと彼の才能をいち早く見抜くマルグリット、対決姿勢の旧世代とは対照的にふたりは対話によって共存を図る。マロリーがハッサンの店に放火した男にフランス革命の精神を謳わせるシーンは、彼女に忘れていた情愛を思い出させ、何度も打ち上げられる革命記念日の花火が、異民族他国籍でも一定の要件を満たせば市民と認めるフランスという国の懐の深さを象徴していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがてマロリーの下で働き始めたハッサンは、香辛料を効果的に使ったレシピで店のミシュラン星を1つ増やし、パリの高級店に引き抜かれていく。ところが、最先端の分子料理などイノベーションばかりを重んじる経営方針にハッサンの気持ちは満たされない。やっぱり母の味こそ人生のよりどころ、己のいちばん大切なものにハッサンは気づいていく。ただ、あまりにも“ディズニー映画”らしい展開には、もう少しスパイスを利かせてほしかったが。。。
オススメ度 ★★*