ポイント ★★★
監督 チェリン・グラック
ナンバー 234
出演 小日向文世/生瀬勝久/菊地凛子/鈴木京香
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
引きとめてほしいのに帰ると言い、帰ってほしくないのにさよならと言ってしまう。お互い好意を抱いているのは分かっているけれど、傷つくのを恐れるあまり臆病になる男と女。中年にさしかかり未来の選択肢がわずかしか残っていない2人には、恋に命をかける勇気はなく、どうしても残りの時間と天秤にかける。そんな不器用なやり取りが非常にリアルでついのめり込んでしまう。豊富なボキャブラリーでワインの芳醇と人生の機微を重ね合わせるセリフの数々はこのリメイクでも健在。疲れた男と意地っ張りな女の、もう一歩を踏み出せない微妙な心理が繊細に描かれる。
結婚を控えた大介と脚本家の道雄はナパバレーにドライブ旅行に出る。2人はレストランで道雄がかつて家庭教師をした麻有子と再会、大介は麻有子の親友・ミナに惹かれていく。仕事に行き詰まりを感じている道雄と麻有子は、昔話をしているうちに相手の心の中にある空白に気付いていく。
面倒臭いことは放りだしてしまう麻有子と都合が悪くなると黙り込む道雄。互いにそんな態度を指摘しあいながらも、自分を守るために長年染み付いた癖は簡単には抜けない。むしろ大人同士の恋愛は、相手の欠点も含めて受け入れることでもあり、結婚・同棲に破れた2人の関係はまさに「破れ鍋に綴蓋」。もはや夢や理想を追いかける年齢でもない、しっかりと地に足をつけた生活を望みつつも1人で生きていくのは寂しすぎる、でも本音を他人に知られたくない。2人ともそう思いつつ、なかなか言葉にできないもどかしさが共感を呼ぶ。
結局、大介はミナにフラれ婚約者とめでたく結婚、麻有子は東京転勤となり、道雄も帰国準備をする。しかし、最後の最後で道雄はやっと麻有子に正直な気持ちを打ち明けようとする。人は生き方に折り合いをつけようとする一方で、いくつになっても自分の進む道を探して迷い、悩む。「人生に正解はない。ワインと同じでそれぞれに味わいがある」というワイナリー主人の言葉が身にしみる作品だった。