こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

正欲

職場になじめない男、いつも一人で行動する女、不登校の小学生、男性恐怖症の女子大生etc. 多様性などという言葉がなかった時代は彼らのようなタイプは世間の「普通」に合わせなければならなかった。だが、自分らしく生きていいと言われるようになってもなお、さまざまな葛藤を抱えている。物語は、ちょっと珍しい思考指向嗜好を持った人々が、それぞれの人生でぶつかった難題を描く。誰にも迷惑をかけていないのに他人には言えない。どうせ理解されないだろうと自分がどういう人間か露にせず内向きになっている。勇気をもってさらけ出しても否定されるのが怖い。やっと見つけた共感できる相手はネット界の住人。彼らに批判的な「常識人」の代表である検事が、家庭内では権威主義が空振りに終わる皮肉が、法で測れない人間の心の複雑さを象徴していた。

両親の事故死を機に故郷に戻った佳道はホームセンターで働く夏月と再会する。ふたりは中学時代、壊した蛇口から噴き出す水に濡れる喜びを共有した記憶があった。

佳道も夏月も他人とのコミュニケーションが苦手で誰かと親しくするよりはひとりが好きなタイプ。水フェチという共通項で結びつくと、周囲から変人扱いされている同士で偽装結婚する。同じアパートで暮らしていても寝室は別、朝食もそれぞれで準備し、お互いに尊重し過度な干渉はしない。驚くべきは彼らがふたりとも性的欲望が一切ないこと。だからこそ男女間の愛を越えた信頼で結ばれる。なるべく波風を立てないよう気を遣うふたりには好感が持てた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方、大学祭実行委員を務める八重子は異性に触られるだけで過呼吸になるのに、ダンサーの大也にだけは恋心を抱いている。矛盾しているのはわかっている。でもそんな自分をわかってほしいと、いかに大変な思いをして毎日を過ごしてきたかを訴える八重子。彼女の言い分をあっさりスルーする大也の態度には快哉を叫んだ。多様性を錦の御旗に己の価値観を平気で相手に押し付ける多様性原理主義者の底の浅さを見事に喝破していた。

監督     稲垣吾郎/新垣結衣/磯村勇斗/佐藤寛太/東野絢香/山田真歩/宇野祥平/渡辺大知/徳永えり/岩瀬亮/坂東希/鈴木康介
出演     岸善幸
ナンバー     204
オススメ度     ★★★*


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