こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

四つのいのち

otello2011-02-17

四つのいのち Le Quattro Volte


ポイント ★★★*
監督 ミケランジェロ・フランマルティーノ
出演 ジュゼッペ・フーダ/ブルーノ・ティンパノ/ナザレノ・ティンパノ
ナンバー 40
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


生きとし生けるものはすべて死ぬ。だが死は終わりではなく、命のリレーという形で次の時代に受け継がれていく。それは食べたり生殖したりするだけでなく、日々の暮らしの中で家畜を育て、消費し、再利用することでもある。中世のたたずまいを残すイタリア山間部の小さな村を舞台に、人と動物と植物、地球のサークルの中であらゆる生き物には必ず存在意義があると説く。一切の説明やセリフ、音楽を排し長まわしを多用したドキュメンタリーのような手法は、時に退屈を覚えるほど変化に乏しい。しかし、映像と自然の音のみで表現しようとする試みはイマジネーションを刺激する。


ヤギの放牧をする老人は、乳を売って日々の糧を得ている。群れからはぐれた一匹の子ヤギは楡の大木の根元で息絶える。斬りだされた楡の木は、村祭りに使われた後、小分けに切断され木炭に加工される。


老人の家とヤギの囲いの間の細い坂道を復活祭の行列が通り過ぎたあと、子供に吠えていた一匹の犬がトラックの車止めをはずし、後退したトラックがヤギの囲いを壊す。そうした一連の長い長い動きをカメラは1カットに収める。何が起きるかわからないスリリングさと、このシーンの意図がつかめるまでの静謐で冗長な時間が絶妙の対比となって、思わずスクリーンにのめり込んでしまった。特殊効果でもCGでもないが、「そこにある何気ない風景」を装ったすさまじいまでの作り込みは、まさに“今までに見たことがない映像”。新鮮な驚きと強烈なインパクトに瞬きするのを忘れてしまった。


◆以下 結末に触れています◆


使用済みの楡は井桁に組まれ、周りに間伐材と藁を積み粘土で固めて、内部に火を付ける。くすぶった煙がもうもうと立ち込める中、数日後には立派な木炭が出来上がっている。そして、木炭が村の人々に配られ家を温める。カメラは人→ヤギ→木→木炭→人と、「物質の輪廻」の様子をじっくり見つめていくが、あえて奇をてらわないのが逆にユニーク。見る者の理性や感情に直接訴えるのではなく、見る者の内部にインスピレーションの種をまく、映画はまだまだ無限の可能性を秘めていると感じさせる作品だった。