こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

一命

otello2011-08-09

一命

ポイント ★★★
監督 三池崇史
出演 市川海老蔵/瑛太/満島ひかり/役所広司
ナンバー 187
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


地面に落ちて割れた生卵を腹ばいになってすする。もはや武士として、いや人間としてのプライドすら捨ててもなおその日の食事にも困るほどの窮乏生活。おまけに病気の妻と乳飲み子を抱えている。収入のあてもなく換金できるものは皆売り払い、残されたのは竹光の脇差だけ。そんな男が進退きわまった末に取った行動は、筆舌に尽くしがたい苦痛と恥辱にまみれた最期で終わる。映画は、太平を謳歌する江戸、勤務先である藩をつぶされた浪人のあまりにも悲惨な末路を描き、その上で、人の命よりも体面を重んじる武家社会の理不尽さを説く。寄らば大樹の陰の安心感と一度梯子をはずされた後の転落の速さ、だからこそ武士たちは面目にこだわり、その地位にしがみつこうとするのだ。


半四郎と名乗る食い詰浪人が井伊家の庭先で切腹したいと申し出る。困惑した家老の斉藤は、以前、求女という若侍の“狂言切腹”に竹光で腹を切らせ、求女がのたうちまわりながら死んだ話を半四郎に聞かせる。


戦がなくなれば武芸など何の役にも立たず、藩がなければせっかくの学問も活かせず、かといって百姓にも町人にもなれない。武家に生まれたが故の「つぶし」のきかなさが求女の首を絞めていく。それでも他人の目があるところでは見栄を張り、妻の薬代・赤子の医者代のために屈辱に耐えている。それに比べて、折れた竹光で自身の腹や胸を突く痛みなど、求女にとっていかほどのものでもなかったはず。ただ妻子に別れを言えなかった後悔を除いては。カメラは求女の感情を真正面からえぐり出し、不運な人生に対する彼の憎しみを投影する。


◆以下 結末に触れています◆


倒産した会社の元社員が日雇派遣に転職したり、生活費や家のローンに困った挙句に心中を図るなど、21世紀の現代でもありそうな題材で求女らの置かれた状況が非常に身につまされる。また次々に明かされる意外な事実は予断を許さない展開となって一瞬の気の緩みも許さず、きっと「切腹」を見ていなければもっと楽しめたに違いない。まあ、3Dにする必要があったのかは疑問だが。。。