こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

柘榴坂の仇討

otello2014-07-25

柘榴坂の仇討

監督 若松節朗
出演 中井貴一/阿部寛/広末涼子/中村吉右衛門/高嶋政宏/堂珍嘉邦/藤竜也
ナンバー 170
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

時代は変わった。制度も覆った。にもかかわらず、もはや存在しない“忠義”に固執し、今や唯一のアイデンティティとなっている。物語はそんな、社会環境の急激な変化に背を向けた元侍の頑ななまでに一途な信念を描く。そして、どれほど困窮しようとも下命を果たそうとする彼が苦労を共にした妻を慮るとき、何が人生にいちばん大切かに気づく。剣の腕を磨き武士として生きる道しか知らない、切腹を認められず生き恥をさらす。死ぬべき時に死ねなかった無念の主人公が、他者とのかかわりあいの中で己の命の重さを悟る過程は、武士道の終焉とヒューマニズムの敷衍という明治初期の空気を濃密に反映する。

桜田門外の変での失態で、逃亡中の水戸藩士暗殺を命じられた金吾は、妻のせつとふたり明治維新後も極貧生活に耐えつつ捜索を続けている。ある日、司法省の秋元から襲撃隊最後の生き残り・十兵衛の情報を与えられる。

東京の街には洋装の男や外国人も増え、身分の差も厳しい上下関係もなくなって自由の風が吹いている。だがいまだ髷を結い二本差しのままの金吾は、調査のため官庁や新聞社を訪れても胡散臭い目で見られ門残払いされるばかり。時流に取り残された変人のごとき扱いを受けるが、むしろ自分が侍でいるこだわりに自己陶酔しているかのよう。事情を察した秋元は仇討で得るものなどないと金吾を嗜めるが、金吾は井伊への思慕を語り転身を打算と断じ、あくまで筋を通す覚悟。失われた価値観にしがみつくしか能のない金吾の姿がもののあはれを誘う。その場での秋元の妻の言葉に、封建時代には口にはできなかった武家の妻の本音が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、車夫となった十兵衛を見つけた金吾は、彼もまた同じように不名誉な“事件後”を引きずっていたと聞かされる。それでも他人を愛する気持ちを取り戻している。金吾がたびたび口にする侍の矜持、それがいかに彼らの家族に苦難を強いてきたかを、せつのミサンガに代弁させるアイデアが秀逸だった。明治初期の日本にミサンガがあったのかは疑問だが。。。

オススメ度 ★★★*

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