こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

モールス

otello2011-08-08

モールス LET ME IN

ポイント ★★*
監督 マット・リーヴス
出演 クロエ・グレース・モレッツ/コディ・スミット=マクフィー/リチャード・ジェンキンス/イライアス・コティーズ
ナンバー 189
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


もはや獲物を仕留めるには年を取りすぎ、十分な食料を集められない。責められ、焦り、疲れ果てた体に鞭を打ち、失敗した挙句に自分の顔を焼き、最後には血を供して命を絶つ。己で決めた道とはいえ、数十年にわたって少女に仕えた末に、やっと彼女の一部となって息絶えた男のすさまじいまでの愛が切なくも美しい。映画は家族にも友達にも恵まれない少年が少女の外見をしたヴァンパイアに惹かれるうちに、孤独を癒し、戦うことを選ぶ過程を描く。雪に閉ざされた町、他人との距離が縮められない者同士の心の共鳴が哀切を帯びた通奏低音となった映像は、胸を締め付けるような生きづらさを象徴する。


いじめられっ子のオーウェンの隣の部屋に、父娘が引っ越してくる。夜な夜なオーウェンはその少女・アビーと話すが、やがて彼女の表情から底知れない悲しみを感じとる。一方、アビーの“父”は人間狩りが満足にできず、アビーを苛立たせていく。


アビーの“父”は、実はアビーのために雑用をこなす世話係なのだが、最大の仕事はアビーのための人間の血の採取。加齢とともに腕は鈍り、アビーの食欲を満たせられない。オーウェンと接近するアビーに「もう彼と会わないでくれ」と頼むのは、今や彼女の気持ちがオーウェンに移りつつあるのを悟った証拠だ。アビーは若さを保っているがわが身は衰えていく。捨てられる日が近いのではないかという恐怖は、酸を浴びるよりも切実な痛みだったに違いない。


◆以下 結末に触れています◆


つまり、オーウェンとアビーの物語は“父”とアビーの過去であり、“父”の最期はオーウェンの未来でもある。アビーは何度も繰り返し世話係を変えて生き永らえ、男たちはアビーの「特別な人間」となって他者から必要とされる喜びのなかで死んでいく。しかし、男たちに希望と目的を与えながらも自らは彼らの苦悩を引き受けるアビーの憂いを湛えた瞳は、彼女の絶望を饒舌に語っていた。ただ、「ぼくのエリ」ほどのやるせなさを覚えないのは、登場人物の感情を説明しすぎたせいだろう。。。