こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブリッツ BLITZ

otello2011-08-27

ブリッツ BLITZ

ポイント ★★*
監督 エリオット・レスター
出演 ジェイソン・ステイサム/パディ・コンシダイン/アイダン・ギレン/デヴィッド・モリッシー
ナンバー 200
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


所かまわずタバコを吹かし誰彼となく酒をせびるが、己の定めた正義に対するこだわりは人一倍強い刑事。犬を焼き殺し、“マイケル・ジャクソンの排泄物”を保管するなど歪んだ精神を持ちながらも鋭い洞察力で警察を手玉に取る連続殺人犯。そんな強烈な個性の2人の前では、良識派刑事のゲイという性癖が清潔に見えるほど。映画は、ロンドンの犯罪多発地区、自分のルールに従って行動するはみ出し刑事と、マスコミを利用して警察を挑発する犯人、さらに犯人から情報を買うジャーナリストといった、常識では測りきれない善悪の彼我を越えた登場人物の葛藤を描く。


巡回中の女性警官が射殺され、捜査に当たるブラントは新任のナッシュとコンビを組む。犯人のブリッツは新聞記者にネタを売り、紙上で犯行声明を出した上、今度はブラントの親友・ロバート警部を惨殺する。


ブラントの頭の中にはあるのは悪党をぶちのめすことだけかと思いきや、同僚へのきめ細かい配慮を見せたりする。本当は気の優しい男なのに時に暴力の衝動が抑えきれない、だからこそあえて狂犬のように悪ぶっているブラントの複雑なキャラクターが非常に魅力的。治安維持のためには暴力行使が許されるこの仕事はまさに“警官はオレの天職”と嘯く彼にぴったりだ。その一方でハードな酒でブラックアウトしなければ耐えられないストレスを抱えているのは、彼自身自らが病んでいる事実に気づいているからだろう。


◆以下 結末に触れています◆


ブラントとナッシュはブリッツを逮捕するが、監視カメラの死角を突き、現場に放火するなど用意周到なブリッツは証拠不十分で釈放される。マスコミをあおり警察の無能をあざ笑う構図は「ダーティハリー」に通じるところがあるが、この作品では対極にあるはずのブラントの闇とブリッツの闇が底流でつながっているかのごとき不気味さを漂わせている。それは、暴力的な人間の本質は時代を経ても変わらないが、急激に社会に溢れだした情報によってもたらされているに違いない。