こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

デビルズ・ダブル

otello2011-11-17

デビルズ・ダブル THE DEVIL'S DOUBLE

ポイント ★★★*
監督 リー・タマホリ
出演 ドミニク・クーパー/リュディヴィーヌ・サニエ
ナンバー 263
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


家族思いで任務に忠実な軍人。権力を笠に着て傍若無人にふるまう狂人。2人は外見がそっくりだったために、運命を共にする。映画はサダム・フセインの息子・ウダイの影武者に仕立て上げられた男の目を通して、何でも意のままになる自由がいかに人の心を蝕んでしまうかを描いていく。だがそれは父の愛に恵まれず優秀な弟に先を越された寂しさの裏返し。そんな複雑にひねくれた胸の内を悟られまいとする男と、彼に振り回され人生を奪われた主人公、正反対のキャラクターをドミニク・クーパーがシャープに演じ分ける。謹厳実直な影武者のほうが本物よりもよほど立派である皮肉が、物語をより立体的に際立たせている。


イランとの戦争中、イラク軍中尉・ラティフは大統領の長男・ウダイに呼び出され、影武者になれと命令される。親兄弟を人質に取られしぶしぶ引き受けたラディフだが、ウダイの常軌を逸した行動の数々に次第に耐えられなくなっていく。


いたいけな少女や新婚の花嫁を凌辱し、父の友人ですら平気で殺すウダイ。彼の、周囲に弱さを見せたくないためにことさら自分の残虐さを暴走させる幼稚なメンタリティは、どこまで悪さをすれば親が怒り出すかを観察する子供のよう。しかし、父・フセインにすら「生まれたときに殺しておくべきだった」と見放され彼の孤独は深まるばかり。それでもウダイのばらまくカネに群がり気まぐれにおびえる取り巻き連中が、なんとか乱心を収めようとする。見守るしかないラティフは悪魔に魅入られた人間の諦観にも似た無力感に襲われる。


◆以下 結末に触れています◆


その後もウダイの乱行は収まらず、湾岸戦争後もバグダッドの繁華街に平気で無防備な姿をさらす。暗殺者となったラティフはそこでウダイに数発の銃弾を浴びせたのち、護衛に追い詰められるが、その護衛の瞳には「よくやってくれた」という気持ちがにじみ出ていた。支配者への不満を口に出せず苦々しく思っていてもわが身と一族の安全のためにおとなしく言いなりになる、政権内部の側近たちもまたウダイに人生を狂わされた犠牲者だったのだ。だからこそラティフを見逃すことで、失った己の正義感を少しでも取り戻した気になったに違いない。