こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

月光ノ仮面

otello2011-12-16

月光ノ仮面


ポイント ★★
監督 板尾創路
出演 板尾創路/浅野忠信/石原さとみ/前田吟/國村隼
ナンバー 274
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


青白い満月の光は、浴びる人に死の影を色濃く落とす。銃弾飛び交う戦場、魚が浮かぶ池、幽体離脱アイデンティティ喪失をテーマにした落語。顔半分を焼かれ記憶を失った復員兵もまた戦死公報が出されている。そんな、死がまだ生活のすぐそばにあった敗戦直後の日本、物語は他人の人生を生きようとしたモノ言わぬ男と、己の人生を他人に譲った男の奇妙な友情を描く。そこにはもはや虚実の真偽に意味はなく、落語という話芸のみが実体を伴っている。だが、あくまで映画はミステリアスな装いを解かず、理解不能の映像の多用はイマジネーションの袋小路に見る者を追いたてる。


顔に包帯を巻いた軍服姿の男が寄席に現れ高座に座る。持っていた御守りから、森乃屋の師匠の娘・弥生は、彼を戦前人気落語家だった森乃屋うさぎと思い込む。一言も発しない男に不審を抱きながら、師匠と弟子たちも彼を温かく迎える。


男は、昨夜死んだ自分の死体を友人と引き取りに行くストーリーの落語「粗忽長屋」を呪文のように繰り返し口にする。しかし、その目には一切の感情が宿らず、ただ虚無を見つめているのは戦場で数々の死を体験し自らも死の淵に落ちかけたからか。それでも弥生を押し倒したり遊郭の女と遊ぶ時だけは体からエネルギーを発散させているのは、生きる希望は失っていても本能の欲望は抑えきれない人間の本性を表わしているようだ。


◆以下 結末に触れています◆


やがて本物のうさぎが戻ってくるが、彼と偽物は同じ前線で戦った戦友同士。本物は喉を負傷してしゃべれず、偽物をうさぎとして高座に上げることを提案する。ところが、この辺りから迷走を始め、笑いながら銃弾を浴びる寄席の客や関係者が血しぶきを上げるシーンに至っては、満月が永遠に欠けず常識が通用しない不思議な世界での出来事であるのは分かるが、ここまでシュールを貫き通しては監督の意図くみ取るのは不可能。確かに予想を裏切り続ける展開には惹きつけられるが、一方で板尾創路扮する偽物が出す負のオーラの単調さは堪えがたかった。


↓公式サイト↓