こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

otello2012-02-11

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 THE IRON LADY

オススメ度 ★★★★
監督 フィリダ・ロイド
出演 メリル・ストリープ/ハリー・ロイド/ジム・ブロードベント/アンソニー・ヘッド/リチャード・E・グラント/アレクサンドラ・ローチ
ナンバー 33
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

シミが浮きしわだらけになった指先、おぼつかない足取り、緩慢な動作。市民は誰ひとりその老婆が歴史に名を刻んだ政治家だと気づかない。心を開いて話せる相手は亡き夫の幻影だけ、日々むしばまれていく意識はいつしか彼女を遠い記憶のかなたに連れていく。映画は、認知症を患うサッチャー英元首相の“いま”と、希望と栄光に満ちた過去を対比させ、老いと孤独からはどんな人間も逃れられない現実を描く。精巧に施された特殊メークと甲高い声は、目の輝きを見なければメリル・ストリープが演じているとは思えないほどリアルで、サッチャーの感情を皮膚感覚で再現していた。

武装警官に警護されながら余生を送るマーガレットは、夫・デニスの遺品を整理しようとしていた。思い出の品々は、かつて理想に燃え、闘いに臨み、敵をたたきのめし、英国に君臨していた日々に彼女をいざなう。

地方の雑貨店に生まれ育ったマーガレットは、若いころから助け合いより自助努力を提唱し、男ばかりの政治の世界に入っても絶対に信念を曲げない。ダークスーツの中で自らの決意の固さを誇示するかのごとく、ひとり青いスーツに身を包んで議会に足を踏み入れるマーガレットの姿が勇ましく、戦う女の覚悟がうかがわれる。その後も、党首選、首相官邸入りなど、重要な転機には必ず青い衣装で登場する彼女が、官邸を去る時は赤いスーツで現れ、赤いバラをまかれた廊下を歩く。闘志と勝利を青、挫折と敗北を赤で象徴する配色のセンスがビビッドで素晴らしい。

◆以下 結末に触れています◆

テロ、労組、侵略…。国家の安全と繁栄を脅かす者には一切妥協しない彼女の姿勢は、混迷増す21世紀の指導者にこそ求められるもの。ごみ袋が道路に積み上げられた70年代のロンドンは現在のギリシアを見ているようで、大胆な競争原理の導入が経済再生の王道であることを示す。そして、リーダーが鋼鉄の意志で挑まなければ改革は成しえないという教訓は、大阪市長には“わが意を得たり”、マニュフェストを次々と反故にする日本の首相には耳に痛いに違いない。。。

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