こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

8月の家族たち

otello2014-03-26

8月の家族たち AUGUST: OSAGE COUNTY

監督 ジョン・ウェルズ
出演 メリル・ストリープ/ジュリア・ロバーツ/ユアン・マクレガー/クリス・クーパー/アビゲイル・ブレスリン/ベネディクト・カンバーバッチ/ジュリエット・ルイス/マーゴ・マーティンデイル/ダーモット・マローニー/ジュリアンヌ・ニコルソン/サム・シェパード/ミスティ・アッパム
ナンバー 67
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

きっと仲の良い一家だったのだろう。母は娘たちの幸せを願い、娘たちはどんな悩みでも打ち明け合い、インテリの父を中心に笑い声に満ちていたような。だが、父が突然消息を絶ち、久しぶりに集まった彼女たちを待ち受けていたのは、皮肉と非難が入り混じった本音。会わなかった時間はいつしか深い溝となり、わだかまりの壁を築いている。親と子、姉と妹、肉親だからこそ愛おしい。それゆえ縁が切れず憎くもある。物語は積年の不満を爆発させる母親を前にして、3人の娘たちもそれぞれのエゴで応じる姿を描く。血縁ならではの葛藤、誰にも言えない裏切り、知っていても知らぬふりをする欺瞞。映画は、むき出しの感情がぶつかり合う中で家族の本質を問う。

父・ベバリーが失踪したという報せで長女・バーバラと三女・カレンが母・バイオレットと次女・アイビーが待つ実家に帰省する。ほどなくベバリーの遺体が見つかり葬儀を上げるが、一族の会食席でバイオレットは出席者に毒づく。

鎮痛剤の副作用とはいえ、目の前にいるすべての人間に絡み、嫌味を言い、場を白けさせるバイオレット。彼女自身が助けを必要としているのに、夫は家政婦を残して理由も告げずに自殺した。それ以前に、娘たちが家を出たのを恨んでいる。それは孤独を与えた者たちに対する復讐。ところが、誰もが不快な顔をしながらも聞き流しているのに、バーバラはバイオレットの気持ちを真正面から受け止めてしまう。家族を崩壊させたのはまさにバイオレットの意地悪な性格が原因なのに、自覚するどころか他人のせいにするのに我慢ならないのだ。延々と続く不毛な言い争い、傷つけあうことでしかお互いを認めあえない、不器用に歪んだ彼女たちが哀しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、秘密と嘘にまみれた父親の真実に触れ、彼女たちもまた犠牲者だったのが明らかになっていく。“人生はとても長い”、その長さが耐え難いのはベバリーだけではない。それでも生きていく道を選ぶ彼女たちに、女のしたたかさが凝縮されていた。

オススメ度 ★★★*

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