ビースト・ストーカー/証人
オススメ度 ★★★*
監督 ダンテ・ラム
出演 ニコラス・ツェー/ニック・チョン/チャン・チンチュー/リウ・カイチー
ナンバー 87
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
並走する刑事と犯人のクルマが横転し激しくクラッシュするシーンは、細かく砕けたガラスがきらめきながらスローモーションで飛び散り、その映像美に酔いしれる。少女をさらった男を刑事が追走する場面では、2人が林立する古いビルと入り組んだ路地や商店を抜け、雑踏を行きかう人波をかき分けて疾走し、彼らの息遣いが聞こえてくるほどの切迫感に満ちている。自動車事故と銃撃戦、映画は濃厚な死と暴力の体臭を発しながらも、登場人物が抱える苦悩に踏み込むことで生きていくうえでの哀しみを描く。ハンディカメラでとらえたクローズアップの多用は人々の感情を浮き彫りにし、スピーディなアクションはラストまでフル回転する。
強盗団の追跡中に検事・アンの娘を誤射殺した刑事・トンは傷心の日々を送っていた。ある日、アンのもうひとりの娘・リンがトンの目の前で殺し屋・ホンに誘拐される。ホンはアンに証拠隠滅を要求するが、トンはリン救出のために独自に捜査を始める。
ホンには全身麻痺で要介護の妻がいる。治療費のために汚れ仕事を引き受けながらもせっせと彼女の世話をするホンは、根っからの悪人ではないのだろう。しかも自身は失明しかかっている。カネのために仕方なく犯罪に手を染め後に引けなくなったホンが、組織からの非情な命令と寝たきりの妻の板挟みになりながらトンに迫られる過程では、焦燥感に苛まれながらギリギリのところでとどまろうとする葛藤がリアルに伝わってくる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
トンも、アンの娘を2人とも死なせるわけにはいかない負い目から執拗にホンを追い、アンの気持ちは検事と母の立場で揺れ動く。3人の駆け引きはもはや頭脳戦ではなく激情にまみれた肉弾戦の様相を呈し、スリリングな中にも絶望的な苦しみを3人に与えていく。さらに最後に明らかにされる事件の発端。ある意味、すべての悲劇の原因はトンの功名心にあったという運命の皮肉の中で、愛する者を守ろうとするホンの姿は人間の本質を問うているようだった。