こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

生き残るための3つの取引

otello2011-04-09

生き残るための3つの取引

ポイント ★★★
監督 リュ・スンワン
出演 ファン・ジョンミン/リュ・スンボム/ユ・ヘジン/チョン・ホジン/チョン・マンシク/マ・ドンソク
ナンバー 84
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


陰謀、汚職、脅迫、恫喝、そして裏切り。司法組織に巣食う暗部をこれでもかと描き込む力技は、息もつかせないテンポで見る者を圧倒する。裏にあるのはゼネコンとの癒着と官僚組織の歪んだプライド。その上、警察と検察の近親憎悪ともいうべき確執が事態をより複雑にし、入り乱れた人間関係は混迷をきわめる。生き残るためには誰かを陥れなければならない、映画は、昇進を餌に容疑者捏造を命じられた敏腕刑事が自ら掘った落とし穴に足を取られ、抜け出そうともがくうちに更なる陥穽に落ちていく過程をパワフルに描く。脇役たちの大げさな演技と押しつけがましい音楽が、主人公の苦悩と煩悶の火に油を注ぐ。


警察大学校出身者ばかり出世する警察内で実力がありながらくすぶっているチョルギは、連続幼女殺人事件の犯人のでっちあげを上層部から持ちかけられる。早速、息のかかった元ヤクザ・チャンに借金を背負っている前科者を差しださせるが、チュ検事はチョルギとチャンの関係に気付く。


チョルギはチュ検事に献金しているゼネコン社長を逮捕しチャンを儲けさせているが、チョルギとチャンは信頼関係で結ばれているわけではなく、チャンはチョルギの汚れ仕事を実行する際にきちんと保険も掛けている。追い詰められ、焦り、打つ手がすべて裏目に出るチョルギ。一方で怒鳴りはしても手は汚さないチュ。チャンは地を這うアウトロー、チュは権力に守られたエリート、ふたりは己が何者で何ができるか心得ている。そんななか、1人チョルギだけが身の丈に合わない野望を抱く。ヤクザ<刑事<検事という3つの職業に厳然と存在する力関係と身分の壁、這い上がろうとする者を容赦なく突き落とす現実が恐ろしい。


◆以下 結末に触れています◆


その後、チョルギはチュに対して裸になって詫びを入れる傍ら、自分に牙をむいたチャンを粛清する。そこでも偽装と保身に走りなんとか切り抜けようとするが、結局身の破滅を招いてしまう。さらに連続殺人犯の正体が判明したときの皮肉。有力者とのコネを持たない者は使い捨てにされる、過酷な競争の結果としての韓国社会の縮図を見ているようだった。