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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

屋根裏部屋のマリアたち

otello2012-05-26

屋根裏部屋のマリアたち LES FEMMES DU 6EME ETAGE

オススメ度 ★★★
監督 フィリップ・ル・ゲイ
出演 ファブリス・ルキーニ/サンドリーヌ・キベルラン/ナタリア・ベルベケ/カルメン・マウラ/ロラ・ドゥエニャス
ナンバー 128
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

社会人としては結果を出し、高級アパートメントに住み、妻子にも恵まれ、現状にはそこそこ満足している。だが、何かが決定的に欠けているのも自覚している。それは人生における本当の幸せ、気の置けない友人や心から愛する人と喜びや悲しみを分かち合うこと。老年にさしかかった主人公は、自ら階級の壁を破って、初めて生きる実感を覚えていく。映画はスノッブなフランス人実業家が、まだ貧しかった時代のスペインからの出稼ぎ家政婦たちと触れ合ううちに、新しい自分を発見してく過程を描く。豊かな生活とはカネではなく助け合い信じあえる人間関係なのだ。

パリで証券会社を経営するジャン=ルイはスペイン人のマリアをメイドとして雇う。ある日、マリアたちスペイン人メイドの住居である屋根裏部屋のトイレを修理してやったのがきっかけで、ジャン=ルイはメイドたちと仲良くなっていく。

美しく働き者のマリアに心奪われたジャン=ルイは、電話を貸したり部屋を世話したりと、他のメイドへの援助で気持ちを表現しようとする。一方で雇い主と使用人のけじめもつけなければならないし、妻や息子たちの目も気になる。それでも入浴中のマリアの裸身を見てしまったジャン=ルイはもはや平静でいられなくなり、パーティで他の男に言い寄られるマリアをつい責めてしまう。エリートとして育てられ期待に応えるべく努力してきた男が、長く忘れていた恋にときめき嫉妬に憤る、その感情をコントロールできなくなる場面がジャン=ルイの半生を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

パリを舞台にしているのに、パリらしい風景が出てこないのは、出稼ぎスペイン人にとっては仕事場と市場と教会が日常のほとんどで、低賃金と長時間労働では観光する余裕などないのを暗喩しているのだろう。パリでの暮らしを楽しんでいないのはジャン=ルイも同じようなものだったはず。そんな彼らがお互いを深く理解し合ううちに、世界が広がっていく。ふれあいと思いやり、優しさに満ちた作品だった。

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