こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天地明察

otello2012-06-08

天地明察

オススメ度 ★★★*
監督 滝田洋二郎
出演 岡田准一/宮崎あおい/佐藤隆太/市川亀治郎/笹野高史/岸部一徳/渡辺大/白井晃/横山裕/市川染五郎/中井貴一/松本幸四郎
ナンバー 139
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夜空は暗く、星はきらめきを失っていなかった。まだ、肉眼で天体を観測していた時代、正体が分からずとも規則正しく光を発する星々に思いをはせる男が、法則性を利用して新たな暦を製作する。その過程で、緯度を算定し、太陽と月の運行を記録して一年の長さを決めていく行程は壮大。度々起きる日蝕・月蝕の予想を通じて暦の正確さを競う姿はスリリング。映画は江戸時代初期、囲碁指南役から天文方にまで上り詰めた主人公の気の遠くなる苦難の道を再現する。算術愛好家たちが自作の難問を神社の絵馬に記して広く解を募るシーンが、現代のSNS掲示板のようで興味深かった。

会津藩士・算哲は藩主から日本全国をめぐって北極星を観測する「北極出地」を命じられ、思慕を寄せる私塾の娘・えんを江戸に残して行脚に出る。無事大役を果たした算哲だが、今度は暦の作成の総責任者に任命され、観測所と大勢の部下を与えられる。

巨大な観測機材を馬車で運び、各地で組み立てて北極の角度を知ろうとする北極出地の技師たち。道中の余興で、歩数で測った観測地までの距離と方角で北極星の位置を予測するが、算哲は最初のトライで見事に的中させ先輩たちを驚かせる。また、天才和算家・関孝和に送った設問の根本的な誤りを指摘されると急ぎ江戸に手紙を書いて訂正する。そのあたり算哲の几帳面で律義な性格は、天体観測・暦作りという高い精度を求められる作業に向いていたことが描きこまれる。時間を忘れて熱中できる異常な集中力こそが未来を切り開く研究者の共通点なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて関との交流で最高の算術理論を導入し、古い暦は使い物にならず元代の暦がより観測結果にマッチしているのを見抜く算哲。しかし、改暦は朝廷権力への挑戦でもある。算哲は己の主張の正しさを証明するために古い暦との闘いを開始する。そして自らの誤謬に気づき、発見した時差の概念。星空と数式に心を奪われた男の人生は、天空を彩る星のごとく美しいと思える作品だった。

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