シャドー・ダンサー SHADOW DANCER
監督 ジェームス・マーシュ
出演 アンドレア・ライズブロー/クライヴ・オーウェン/ジリアン・アンダーソン/ブリッド・ブレナン
ナンバー 317
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
大義に命を捧げるテロリストといえども、わが子に対する思いは平凡な母親と変わらない。そして敵はその気持ちを巧みに突き、取引を持ちかけてくる。己のことならば我慢できる、だが愛する息子への願いが絶たれようとした時、彼女は仲間を裏切り家族を欺く決意をする。物語はいまだIRAの脅威が吹き荒れていた時代の北アイルランド、英国のスパイとなったアイルランド人ヒロインの葛藤と、彼女を運営する英国情報部員の暗闘を描く。そこは一度足を踏み入れたら死ぬまで抜けられない地獄、罪悪感の果てに彼女がたどり着いた結末は耐えがたい苦悩だったという皮肉が、血で血を洗う復讐の連鎖の虚しさを説く。
爆弾テロ未遂で逮捕されたコレットは、MI5のマックに服役代わりにテロリストの弟・ジュリーとコナーの動向を探れと命じられる。コレットは弟たちの会話から「警察官襲撃計画」をマックに漏らし、実行犯は警官隊の餌食になる。
マックは待ち伏せを止めようとするが上司が強行、密告屋はコレット以外にもいると気づいたマックは独自に調査を始めコードネーム「シャドー・ダンサー」を突きとめる。一方、IRA内でもリーダーのケビンがコレットやコナーに疑いの目を向ける。もはや戦うべきは敵ではなく身内の上司、切り捨てられ逃げ場もなく孤立無援のまま追い詰められていくコレットとマックの息詰まる緊張と、一つ間違えれば墓穴を掘る恐怖が、感情を抑制したリアルな映像に再現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
もともとコレットがマックに協力した動機は、幼い弟の死因が実はIRAの流れ弾に当たったと知ったため。自分の身代わりになった自責の念があったからこそIRAに身を投じたのに、騙されていたと知り、組織への忠誠が揺らぐのだ。シャドー・ダンサーもまたコレットと同様、MI5から同じ写真を見せられ同じ手法で取り込まれたのだろう。肉親の情に訴え切り崩していくやり方は愛の深い母親ほど効き目がある。武器や兵器を使わない狡猾な戦術を通して、映画は歴史的怨念の染みついた紛争の真実を見せてくれる。
オススメ度 ★★★