こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ

otello2013-02-27

ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ
Eames: The Architect & The Painter

監督 ジェイソン・コーン、ビル・ジャージー
出演 ルシア・イームズ/イームズデミトリオス/ポール・シュレイダー/リチャード・ソウル・ワーマン/ケビン・ローチ
ナンバー 44
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

背中から腰、尻から太ももまでやわらかい曲線で体を包み込み、長時間快適に座っていられる上、洗練されたインテリアとしても通用する。カメラは、そんな現代人の必需品となった椅子を“発明”した夫婦の人生を追う。もはや家具の域を超えアートに達した椅子の数々はいかにして生まれたか。斬新なアイデアを出しては捨てる、やっと納得がいくと製品にするための素材を選び加工法を新たに試行錯誤する。誰もやらないことを実現させるには、閃きと不断の努力が必要であるとこの作品は教えてくれる。映画は数十年に渡る夫婦の活躍を生前の彼らを知る人々のインタビューとアーカイブから構成する。

チャールズとレイのイームズ夫妻は背もたれと座面が一体化した椅子の製品化に取り組む。大勢の人間から取ったデータをもとにデザインし、合板を使って理想の曲面を生みだしていく。そしてふたりのパートナーシップは女性の地位が低かった1950年代の米国社会にインパクトをもたらす。

宇宙から陽子という極大から極小に至るフィルムはプロの映像作家にも影響を与え、驚きに満ちたメッセージを言葉ではなくイメージで伝えるのに成功する。後に映像の世界に進出したチャールズはここでも人跡未踏の地に足跡を残し、さらに大企業のイメージ広告にまで手を広げていく。だが、チャールズが多才多能を発揮するほどレイとの溝は深まっていく。時代のアイコンだった夫婦の関係が冷えていく過程は、ユニークなチャールズの経歴の中で唯一ありふれた出来事なのが大いなる皮肉だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

「芸術家」の肩書は他人からもらうもの。大量生産・大量消費される安価な工業製品でも、機能美を極めればアートと認められ美術館が収蔵しようとする。心に作用をもたらす「観賞するアート」から、人々の生活に密着し使いこなしてその良さを理解する「実用アート」へ。椅子に代表される、アートと日常の暮らしを密接に結びつけたイームズの功績から現代人が受けた恩恵は計り知れない。。。

オススメ度 ★★*

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